橘玲の日々刻々 2019年6月6日

もはや手遅れだが、日本が若年失業率対策をしてこなかったことが
40代、50代のひきこもりの大量発生や「8050問題」を引き起こしている
【橘玲の日々刻々】

ヨーロッパでは「大学進学率の低い国(労働参加率の高い国)ほど幸福度が高い」

 表③は、若年層(15~24歳)の労働参加率(2004年)と幸福度ランキング(2019年)の国際比較だ。

 労働参加率はそれぞれの国で若者がどれだけ労働市場に参加しているかの割合で、先進国(OECD諸国)の平均が49.9%、ヨーロッパ(OECDに加盟する欧州諸国)の平均が44.9%なのに対し、若年失業率の低いオランダ(72%)やイギリス(67.4%)は労働参加率が際立って高く、若年失業率の高いイタリア(35.6%)やフランス(37.5%)は労働参加率が低い。――ちなみに日本の労働参加率は44.2%と先進国の平均より低く、それにもかかわらず若年失業率が低い「特異」な国であることがここから確認できる。

 教育への幻想の強い日本では「大学進学率の高い社会がよい社会だ」と無条件に信じられているが、これが「神話」であることを示すために、国連の関連機関が毎年公表している「世界幸福度ランキング(2019)」を右欄に載せた。

 幸福の測り方はさまざまで、このランキングに対しても批判はあるだろうが、全体の傾向(幸福度ランキング1位のフィンランドの国民は、最下位の南スーダンの国民よりずっと幸福だ)を見るには有益だろう。

 興味深いことに、ヨーロッパの国々では、労働参加率(≒大学進学率)と幸福度ランキングのあいだにはっきりとした傾向がある。それは、「大学進学率の低い国(労働参加率の高い国)ほど幸福度が高い」ということだ。これは奇異に感じられるかもしれないが、「若年失業率の低い国ほど幸福度が高い」といい直せば納得するだろう。――ちなみに日本はここでも、「若年失業率は低く、幸福度はもっと低い」という例外だ。

 ここから推測できるのは、イタリア、スペイン、フランスなどの「高失業率」の国の若者は、勉学の志があって大学に通っているというよりも、職探しをしてもまともな仕事がないので、親の援助を受けながら(これらの国では「パラサイト・シングル」が当たり前だ)一種のモラトリアムとして進学しているのではないかということだ。

 逆にいえば、ヨーロッパの若者の多くは、ちゃんとした仕事さえあれば、費用のかかる大学で4年間をムダにしようとは思わないということだろう。オランダの若者は大学に行かずに働いているが、国の幸福度は日本に比べてはるかに高い。

 新卒一括採用という「現代の徴兵制」によって若年失業率を下げたとしても、それが幸福度の向上につながるわけではないのだ。

オランダのようなリベラルな「働き方改革」では「正社員」の既得権はすべて否定される

 『日本のニート・世界のフリーター』で白川氏は、欧米諸国の若者の就労対策についても紹介している。ここではそのなかから、成功例としてイギリスとオランダ、高い失業率に苦しむ国としてフランスとイタリアを取り上げよう。

 イギリスでは1970年代に「ゆりかごから墓場まで」といわれた手厚い福祉政策が破綻し、「ネオリベ」のサッチャー政権が成立し、雇用政策そのものが大きく転換した。こうして始まったのが「積極的雇用政策」で、失業保険の受給要件を厳格に運用する一方で、職探しを支援し若者を労働市場に参加させることが目的とされた。

 1997年に保守党から政権を奪った労働党のブレア政権もこの方針を受け継ぎ、25万人の若者を職に就かせるという「ニューディール政策」を掲げた。そこでは、「18~24歳で、6カ月以上失業保険を受給している者」を対象に、若者一人ひとりに職探しの専門家である「アドバイザー」が付けられる。

 それでも一定期間(ゲートウェイ期間)に仕事が見つからない場合は、①12カ月のフルタイムの教育・訓練を受ける、②政府からの援助を受けた雇用主の下でひとつの仕事を行なう、③ボランティアの仕事をする、④政府の環境保護活動に従事する、の選択肢が提示され、すべて断った場合は失業手当が一定期間停止される。ブレア政権は「リベラル」と見なされるが、「真正保守」の安倍政権下の日本と比べても失業保険の給付基準はずっときびしいのだ。

 その一方で2001年には、13~19歳のすべての若者を対象にしたコネクションサービスが始まった。この年齢層の「ニート率」が1割にも及んでいるという衝撃的な調査をきっかけに、「学校から仕事への移行」を支援することになったのだ。

 コネクションサービスは中央組織と47の地域に設立された機関からなり、専門分野をもったパーソナルアドバイザーが若者の直面する課題に対応する。その結果、3年後には若者のニート率が3%低下したとされた。

 イギリスの若年雇用政策は先進諸国のなかでは成果をあげたと高く評価されているが、それよりもすぐれた実績を達成したのがオランダだ。北海油田からの石油・天然ガス収入で国民が福祉依存に陥った80年代の「オランダ病」を克服するために大胆な「ネオリベ的改革」を断行したこの国では、全就業者数に占めるパートタイム労働者の割合が2004年には35%と、OECD平均(15.2%)をはるかに上回った。それでも大きな社会問題にならないのは、1996年にパートタイム労働とフルタイム労働の均等待遇が法制化され、「パート」は勤務時間が短いという以外、「フルタイム」となんのちがいもなくなったためだ。

 さらに2000年には「労働時間調整法」が施行され、従業員から労働時間の調整について要請があれば、使用者は原則としてこれを受け入れなければならなくなった。これによって労働者は、子育てや親の介護、社会人教育など人生のライフスタイルに応じて勤務時間を主体的に決められるようになった。

 こうした「平等」で「リベラル」な雇用制度がオランダの低い失業率と良好な経済パフォーマンスを支えたのだが、日本のマスメディアではほとんど紹介されなかった。それは日本社会の主流派(マジョリティ)が「正社員」であり、マスコミの記者の大半が「正社員」だからだろう。

 オランダのようなリベラルな「働き方改革」をやれば、正規と非正規のちがいはなくなり、「正社員」の既得権はすべて否定されてしまうのだ。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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