中国 2019年6月10日

旅行作家・下川裕治氏が
バングラデシュの小学校支援を28年間続けている理由(後半)【番外編】旅行作家・下川裕治氏特別インタビュー

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2006年に中国に移住し、蘇州、北京、広州、その後上海に約8年在住。情報誌の編集長を経て現在はフリーランスとして活躍する大橋史彦さん。今回は前回に続いて、以前から交流のあった旅行作家の下川裕治さんへのインタビューから、バングラデシュでの活動をレポートします。

●関連記事:旅行作家・下川裕治氏が
バングラデシュの小学校支援を28年間続けている理由(前半)

 メンバーたちは皆若かったのだろう。下川さんたちは、特に先のことを考えずにバングラデシュ・コックスバザールでラカイン族のための学校運営の支援をはじめた。しかし、教育はすぐに結果が出るものではなく、継続の難しさを思い知らされることになる。

 「支援でわかりやすいのは、教科書を送ったり、井戸を掘ったり、校舎を建てたりと、成果をすぐに見せられるもの。終わりのある事業が援助のプロだと言われます。寄付した側も自分の寄付したお金の使途がわかりやすく、達成感を得られますし、そのほうが援助を受けやすいと、援助団体の人に言われました。

 僕らはそういうことをまったくわからずに学校運営をはじめてしまいました。教育は、成果が出るのが早くても10年後。結局、いちばん目に見えない部分をやっているわけです」

医大に進んだ女性がベンガル人と駆け落ち

 それでも継続することで、ようやく成果が見えてきた。卒業生のなかには、首都ダッカの大学に進学した者もいる。しかし、そこには難しい現実も待ち構えていた。

 「ひとりの女の子が医科大学に進学し、ついにラカインから女性の医者が生まれるかと期待が高まりました。ところがその子はベンガル人と恋に落ち、失踪してしまったんです。

 異教徒がイスラム教徒と結婚するためには、改宗しなければなりません。しかし、ラカイン族の村でそんなことが周りに知れたら、家族は村八分にされてしまいます。彼女はそれをわかっているので、家族にすら連絡をしなかったのでしょう。いまでも彼女の行方はわかりません」

 ベンガル人社会に深く入り込めば入り込むほど、こういうことは起こりうるが、宗教の問題もあり、古い慣習を変えることはなかなかできないのが現実なのだ。

寄付だけに頼らぬよう事業に投資

 28年の歳月は、外部環境を大きく変えた。当初は、寄付で集めた2万5000円を2カ月に1度送金し、教師には月給1000円を支払っていた。当時の物価からすると、それはけっして低くなかった。開校から5年後、教師たちからの要望で月給を倍の2000円にしたが、それからは一度も給与は上がっていない。

 ところがその間、インフレ率の高いバングラデシュでは、物価が右肩上がりだった。ミルクティを例にとると、「28年前は1杯1タカ(当時のレートで約2円)で飲めたのが、いまは5タカ(約6.5円)」(下川さん)と5倍になっている。
 
 月2000円ではさすがに生活ができず、教師たちは授業のない午後の時間を利用して塾講師をしたり、NGOの仕事を手伝ったりして生計を立てている。

 一方、日本はバブル崩壊を経てデフレ経済の袋小路に入り込み、所得が上がりにくい状況が続いている。資金集めも、徐々に歯車が狂い始める。

 「寄付する側の高齢化で退職する人が増えてくると、月々の寄付が滞る人も出てきました。忘れているだけかもしれませんが、催促はできないですよね。他の人たちで不足分を負担していきました。これが援助する団体の弱みで、強制力がないんです。気持ちだけで持っている部分があります」

 このままでは立ち行かなくなると危機感を抱いた下川さんは、10年前、中心メンバー以外からの支援はこれで最後にするとの条件で、少しまとまった額を皆から寄付してもらった。収入源を確保するための事業投資に充てようと考えたのだ。

 「物価がどんどん上がっていくのだから、売上が上がっていくものに投資していかなければならない。そこで考えたのが、タクシーのリースです。タクシーといっても、バングラデシュで主流なのは『CNG』と呼ばれる三輪自動車。集まった80万円でインド製2台と中国製1台を購入し、ドライバーに貸し出そうと考えたんです」

 三輪自動車にはメーターが付いていないため、言い値で客を乗せる。経済成長に乗って、ドライバーの収入は目に見えて増えていった。それにともない学校の財政も潤ったが、長続きはしなかった。
 
 2年ほど経つと、三輪自動車の故障が目立つようになる。その修理代が足枷となったのだ。中国製は電気を動力としていたため、電池の劣化も頭の痛い問題だった。修理代が収入を超える月もあったため、事業から撤退せざるをえなかった。

 幸い、3台の三輪自動車のうちインド製2台は、村の人たちがお金を出し合い買い取ってくれることになった。村には、これといった公共交通機関がなかったからだ。学校運営に対する村からの協力金という意味合いもあり、購入時とほぼ同じ金額で売却することができた。

 そのお金をどうしたらいいか。下川さんは、金融機関に勤めていた経験を持つ知り合いに相談した。

 「バングラデシュは金利が高く、定期預金の金利が二桁で推移しているので、銀行に預けておくべきだとアドバイスされました。ただし、新興国では銀行が破綻するリスクが高いので、3カ月の定期預金にするべきだと。いまでもそれを続けていて、3カ月経つといったん解約し、預け直すということを繰り返しています」

 それによって、利子だけで1カ月分の給料を払えるようにはなったが、不足分は引き続き中心メンバーからの寄付に頼っている。

80万円を元手に購入したCNG【下川さん提供】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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