ルイ・ヴィトン、シャネル、グッチなど、特定メーカーの商品は高級ブランドとして認知されているが、偽造品や海賊版がいま、彼らの存在価値を脅かしつつある。偽物によってイメージが損なわれるだけでなく、莫大な損害が生じているのだ。筆者は、消費者が偽ブランドに流れてしまうのは、ブランド自身がみずからの価値を毀損する取り組みを行ってきたからだと指摘する。本来の価値を取り戻すための3つのポイントが示される。


 ラグジュアリーブランド業界は長いこと、模倣品と戦ってきた。

 多額の資金を投じて、最新のナノテクノロジーやIoT、人工知能(AI)を駆使した超最先端の認証技術を導入したり、しかるべき機関に模倣品の押収や廃棄、バイヤーやディーラーの訴追、偽造品販売サイトのブロックといった権限を与えるよう、政府に働きかけたりもしている。それから、顧問弁護士。LVMH1社だけをとっても、60人以上の弁護士を雇い、コピー商品に対する法的措置に年間1700万ドル費やしている

 しかし、こうした努力は報われていない。偽造品・海賊版の流通総額は、およそ4兆5000億ドルと推定される。そのうちラグジュアリー製品は、医薬品や娯楽製品をしのぐ6割から7割を占め、1兆2000億ドルと推定されるラグジュアリー製品の全取引額の4分の1ほどを占めると見られている。

 これにはデジタル化が大きく関与し、ネット空間のユビキタス性と匿名性をとことん利用して、4割ほどがインターネットで売買されているという。アリババのように、模倣品を厳しく取り締まるサイトが現れたかと思えば、偽造品メーカーから直接購入させるような新しいサイトができる。イタチごっこだ。

 では、ブランドはどうすればよいのだろうか。

 その答えを探るために、我々は4つの領域の専門家32人に話を聞いた。ブランドの幹部、ラグジュアリー業界団体の代表者、政府機関や研究機関における模倣対策のエキスパート、そしてラグジュアリー業界よりも模倣対策に成功している医薬および音楽業界の幹部だ。

 ヒアリングの結果をまとめると、ラグジュアリー企業が偽造行為の拡大を抑えられなかった最大の要因は、ブランドの空洞化にあると言えそうだ。ステータスや特権を象徴する高級ブランドだが、それ以上の価値をほとんど持たなくなっている。業界全体がラグジュアリーを届けることよりひけらかすこと、製品の有形価値より無形価値、どんな品質の証よりロゴに重きを置くようになった。

 そしてこの考え方は、サプライチェーン、製造、価格設定にも貫かれている。生産を低コストの国へ移した結果、ブランドのルーツである土地との数世紀に渡るつながりを、みずから切ってしまった。また、このアウトソーシングによって、サプライチェーンやデザイン、製造の管理が緩くなり、それぞれの段階で、模倣品業者にかつてないほどつけいる隙を与えることにもつながった。

 そうやってコストを抑えたにもかかわらず、商品のメーカー設定価格は劇的に高騰した。もともとこれは、海外で爆買いし、自国で転売する中国人旅行客への対抗策だったのだが、値上げはどんどんエスカレートし、2014年には、シャネルのハンドバッグが6年前の1.7倍の値段になっていた。他のブランドも同じで、メインストリーム市場の倍以上の割合で値上がっている。

 この価格戦略の初期の成功に後押しされ、多くの企業が、低価格帯のセカンドブランドを段階的に終了させた。その代表例が、2012年のドルチェ&ガッバーナによる黒字のセカンドライン「D&G」の終了だ。

 そうした動きの結果、ブランドの価値とプロダクトの価値とが結びつかなくなり、消費者のフェイク品を買うことに対する気兼ねは、以前ほどではなくなっている。

 見た目がほとんど変わらない中国製のコピー商品(そのブランドの下請け工場がつくった可能性もある)が買えるのに、メイド・イン・チャイナの正規品に2500ドルかけることは、はたして賢明なことだろうか?その判断は、匿名で売買できるネットの普及によって容易になるばかりだ。

 こうして見ると、ラグジュアリー業界の偽物対策の肝は、模倣品業者と対決することではなく、そもそも何がブランドの価値を高めていたのか、を思い出すことにありそうだ。