団塊の世代が「暴走老人」化

 近年クレーマーが増加し、中でもモンスタークレーマーが増えているのはなぜか。背景にはデフレや高齢化の進行、ネットの普及などさまざまな社会の変化がある。

 団塊の世代(1947~49年生まれ)が60歳になり、一斉に定年を迎え始めたことに起因する「2007年問題」。労働力人口の減少や退職給付金の負担増などの問題として語られることが多かったが、意外な問題も引き起こしていた。シニアクレーマーの増加だ。

 クレーマーになった人の多くは、高学歴で高所得、高い役職に就いていた知識豊富な人たちだ。言いたいことを見つけては企業のお客様相談室に電話をかけ、あたかも「後輩を指導する」かのごとく、冷静に論理的に持論を展開する。過去の自分の役職や知識をひけらかすだけならまだいい方で、「品質管理に関する資料を見せなさい」「私が工場を見て課題を見つけよう」などと無理難題を吹っ掛けて担当者を困らせた。

 それから12年たち、70代になった団塊の世代が今、「暴走クレーマー」に化けつつある。

 消費者心理に詳しい関西大学社会学部の池内裕美教授は、「怒りや不安、不満、不信感といったネガティブな感情を抑え込むのは、すごくエネルギーが要る。それが年を取ってできなくなり、“暴走”してしまう」と分析する。認知症やうつ病が加わるとさらに感情はコントロールできなくなる。

 現代の高齢者はテクノロジーの進化に付いていけず、生きにくさにさらされている。ネットやスマートフォンの使い方の説明を受けても理解できない。次第にイライラして、「何だその態度は! 俺は客だぞ」とキレてしまう。

過剰サービスが元凶

 キレるクレーマーは高齢者だけではない。さまざまな社会的背景から心の病を患う人も増加しており、ちょっとしたきっかけでキレやすくなっている。団塊の世代の暴走老人化に加えて、ネットの普及もクレーマーを増やす要因となっている。普通の人でもSNSを使えば瞬時に何万、何百万の人に訴える発言力を持ち、企業にクレームを言いやすくなった。

 池内教授は、クレーマーが増えているそもそもの背景として、日本企業の過剰サービスがあると指摘する。国内市場が飽和する中で製品もサービスもコモディティ化し、差別化が難しくなった。それで価格競争が激化しデフレが進行した。しかし価格競争も行き着くところまできて、企業は過剰なサービスで戦うしかなくなったのだ。

 どの企業も「お客様は神様」とばかりに高級店のようなおもてなしをするようになった結果、消費者はそれが当たり前だと勘違いし、少しでも期待を裏切られるとキレるようになったのだ。

 しわ寄せを受けているのは現場の社員だ。これ以上現場を疲弊させないためには、過剰なサービスをやめて価格相応にすべきだろう。また、客からのハラスメントを受けた従業員に対しては、「一定時間休憩・休暇を取らせるなど、ガイドラインではなく法制化が必要では」と池内教授。日本同様にクレーマー問題が深刻な韓国では、そうした条例を整備しているという。

おもてなしという名の過剰サービス

 日本の労働生産性が低いのは、サービス業が足かせとなっているからだ。なぜサービス業はとりわけ生産性が低いのか。背景にはおもてなしという名の過剰サービスの問題がある。

 日本のサービス業の生産性は米国の半分――。日本生産性本部がまとめた労働生産性の国際比較の結果だ(図参照)。つまり、サービス業の生産性の低さが、国全体の足を引っ張っているのだ。さらに、卸売り・小売りや宿泊・飲食といった業種がサービス業の中でも特に生産性が低いことが分かる。

「『お客様は神様』『安いのはいいこと』という二つの価値観が、サービス業の生産性の低さにつながっている」。日本生産性本部の木内康裕上席研究員はそう分析する。

 また、日米のサービス業で生産性が倍も違うのは、「日本ではどの客にも平等に質の高いサービスを提供するが、米国では金持ちには高品質の、お金のない人にはそれなりのサービスしか提供しない」(木内上席研究員)からだ。つまり日本では、価格に見合わない過剰なサービスを提供しているが故に生産性が低くなるのである。

 サービスと価格のバランスをいかに取るかが、日本の生産性を上げる鍵となるだろう。

(週刊ダイヤモンド2019年2月16日号「クレーマー撃退法」を基に再編集)