20世紀に入ってからというもの、米国に次ぐ数のノーベル賞受賞者を輩出している日本だが、実は科学技術立国の足元は驚くほど揺らいでいる。どういうことか、ノーベル賞受賞者に聞いた。本記事では、本庶佑氏(ノーベル生理学・医学賞受賞)、中村修二氏(ノーベル物理学賞受賞)、山中伸弥氏(ノーベル生理学・医学賞受賞)の言葉を紹介する。

「週刊ダイヤモンド」2018年12月8日号の第1特集を基に再編集。肩書や数値など情報は原則、雑誌掲載時のもの。

ノーベル賞受賞会見で飛び出した、本庶佑氏「小野薬品批判」の深層

 夢のがん免疫治療薬といわれる「オプジーボ」。2018年10月、京都大学高等研究院の本庶佑特別教授のノーベル賞受賞が決まったが、記者会見で製薬会社を凍り付かせる発言が飛び出した。

 がん免疫治療薬「オプジーボ」が、「夢の薬」ともてはやされる理由は、進行した患者に効果を示している点にある。例えば肺がん患者を対象にした海外での臨床試験(第3相)では、利用できる最良の治療より死亡リスクを約4割低下させた。オプジーボの開発で欠かせなかったPD-1分子を発見し、機能を解明したのが本庶氏だ。

 医療用医薬品として承認を受けるためには、実際に人間での安全性や有効性を確認する臨床試験が必要。莫大な手間と費用がかかる。そのため本庶氏は付き合いのあった大阪の中堅製薬会社、小野薬品工業に話を持ち掛けた。紆余曲折の末、「小野薬品-米メダレックス(後に米BMSが買収)」の共同開発に託した。オプジーボが最初に承認を受けた適応症が悪性黒色腫で、小野薬品は2014年に国内で販売を開始した。以後、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、胃がんなど着々と適応症を増やしている。海外でも同様で、「夢の薬」に救われた患者が世界で増え続けている。

 米大手情報会社、トムソン・ロイターのノーベル賞有力候補に挙がったのは2016年。2018年の受賞はまさに、「満を持して」のものだった。その受賞決定会見で、小野薬品関係者を凍り付かせる言葉が本庶氏の口から飛び出した。

「研究自身に関して小野薬品は何も貢献していない」

 そして、こう続けた。

「(小野薬品は)ライセンスを受けているわけですから、リターンを大学に入れてもらいたい」「新しいシーズが生まれ、製薬会社に返っていくウィンウィンの関係が望ましい」「そのため小野に長くお願いしているわけです」

 大学との共同研究が盛んな製薬業界に激震が走った。当の小野薬品は、「基礎研究の段階でも幾つかの部分で貢献した」「本庶氏が特許を取得する際にも支援した」と釈明に追われた。

 実は、「週刊ダイヤモンド」は2015年に本庶氏にインタビューを行っている。限られた時間の会見だけでは分かりにくかった本庶氏の発言の真意を、当時のインタビューから解き明かす。