週刊ダイヤモンド7月6日号の第1特集は「銀行危険度ランキング」。国が成長戦略に地方銀行の再編に関する特例法の制定を盛り込み、銀行の監督官庁である金融庁は、銀行の「将来の収益力」という観点から「伝家の宝刀」である行政処分を繰り出せるように制度の見直しを施しました。なぜ今、銀行包囲網は急速に狭まっているのかに迫りました。

国の「成長戦略実行計画案」に
地銀の特例法が盛り込まれた理由

 国や地方の成長戦略の司令塔である「未来投資会議」(議長・安倍晋三首相)は6月5日、「成長戦略実行計画案」を発表した。

「デジタル市場のルール整備」「フィンテック/金融分野」「次世代インフラ」といった項目が並ぶその計画案の中には、地方銀行のために割いたページもあった。そして、そこには地銀に「特例法を設ける」と書かれていた。

 しかし、それは銀行業界の「成長戦略」を描いたものではなかった。むしろその逆だ。計画案の中で地銀は、同じ境遇にある乗り合いバスと共にこう語られた。

「現在、少子化、人口減少の中で、地域において、その経営が急速に悪化しており、(略)その経営力強化が喫緊の課題である中、その選択肢として、経営統合や共同経営の実施が見込まれる」

 実は特例法制定とは、地銀を他行との経営統合や合併に突き動かす国の方針にほかならない。

 銀行の業績が悪化して地元地域の資金繰りに支障を来す恐れがある場合に限って独占禁止法の適用を除外し、特例的に経営統合が認められるようにする。そんな方針を明確に打ち出したのだ。

 2020年の通常国会でその特例法案を提出し、10年の時限措置を導入することで、苦境に陥る銀行に対して集中的に再編を促す。

 これは、70歳超が急増する中小企業の経営者に事業承継を促すやり方と同じだ。18年度の税制改正で、贈与税と相続税の「100%納税猶予制度」を10年間の時限措置として創設している。

 銀行が破綻して混乱に陥る前に、国を挙げて整理すべきだという意思の表れといえる。

国の動きに呼応する金融庁
銀行への「伝家の宝刀」を磨き直す

 そんな国の動きと時を同じくして、銀行の監督官庁である金融庁も呼応するような動きを見せている。それが「早期警戒制度」の見直しだ。

 従来重視してきた「足元の健全性」だけでなく、「将来の収益力」も銀行に強く求める方針を表明。必要があれば、その観点から「伝家の宝刀」である業務改善命令などの行政処分を銀行に下せるようにした。

 それに当たって具体的に、今後約5年以内に「コア業務純益(投資信託の解約損益を除く)が継続的に赤字になる」ことが予想される、といった条件を明示したのだ。

 コア業務純益とは、一般の事業会社の営業利益に当たるものだ。営業赤字が続くようであれば、足元は大丈夫でも将来的には銀行の健全性にヒビが入る。そうなる前に危機の芽は事前に摘みにいくというのが、金融庁が早期警戒制度の見直しに込めた真意だ。

 それに先駆けるようなかたちで昨年、水面下ですでに収益力の改善を求める業務改善命令を受けたのが、福島銀行だ。有価証券の含み損処理や不良債権処理、店舗の資産価値の減損など、将来の損失リスクをはき出した影響もあり、18年3月期に7期ぶりの最終赤字を計上した。

 それを受けて森川英治前社長は引責辞任。同じ県内地銀の最大手である東邦銀行の元専務、加藤容啓氏を社長に迎えて再建途上にある。