孫正義氏・ソフトバンク社長

 ソフトバンクの孫正義(1957年8月11日~)というと、次々と企業を買収し、事業を拡大するイメージがあるだろう。飽きっぽく変わり身が早い印象を持つ人もいるのではないだろうか。

 だが実は、1994年11月5日号の本誌インタビューでは、「コロコロ事業を変えたり、多角化したくなかった」と述べている。にわかには信じ難い発言である。

 ご存じの通り、それから25年でソフトバンクは、祖業であるソフトウエアの卸売りから見事といっていいほど多角化している。投資先を含めれば、事業領域はテック業界を中心に人工知能(AI)、ロボット、医療など幅広く、海外メディアからは、テックコングロマリットと称されるまでになった。

 だが、この言行不一致を特に批判したいわけではない。

 技術の進歩や規制緩和などを見極めつつ、ブロードバンド事業や携帯電話事業に参入。リスクを取って成長してきた。多角化を劇的に進めたからこそ、トヨタ自動車などごく限られた企業にだけ許される「利益1兆円クラブ入り」ができたわけだ。

 時に前言をちゅうちょなく翻してでもチャンスをつかむ貪欲さは、経営者に求められる能力といえる。(敬称略)(ダイヤモンド編集部論説委員 深澤 献)

ソフトバンクの創業時
40ほど新事業を考え出した

『週刊ダイヤモンド』1994年11月5日号誌面コピー1994年11月5日号より

──今、一番気になっていることは何ですか。

 やはりマルチメディアとネットワークの動向ですね。

──その二つが「こうなる」という信念はすでに持っていますね。

 基幹の部分についてはビジョンを持っています。ただ、刻々と変化していきますから、どのタイミングでどの方向に球を打ち出すか、という判断はしなくてはいけません。

──どのくらい先までのビジョンを持っているのですか?

 常に10年ぐらい先は見ておかないと、あっという間ですからね。僕は現象面で捉えるというよりも、「本来こうあるべきだ」と理詰めで考え、それに対して現状はどうか、ということを考え合わせていく。もちろん、この二つにギャップはありますが、世の中は遅かれ早かれあるべき方向に流れていくと思います。

──比較的「べき論」で見ていく。

 ソフトバンクを始めたときにも、自分の決めたことを途中で変えたくないものですから、徹底的に考えました。そして40ほど新しい事業を考え出しました。僕は時代が違ったなどと言い訳をしてコロコロ事業を変えたり、多角化したくなかったんです。そういう言い訳が大嫌いなんですよ。だから言い訳をしないために、あらかじめ自分で言い訳の選択肢を全部切るしかなかったわけです。

 僕はよく若いと言われますが、18年も社長業をやっています。上場の大会社でも、こんなに長くやった人はあまりいないはずです。その間、1年も赤字を出さなかったのも、徹底的に考えたからだと思います。