橘玲の世界投資見聞録 2019年7月4日

世界的ベストセラー『神の刻印』に書かれた
アークの行方はどこまで正しいのか?
【橘玲の世界投資見聞録】

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 6月22日、エチオピアでクーデター未遂事件が起きた。報道によれば、北西部アムハラ州の州都バハルダールで州首相と幹部2人が射殺され、次いで首都アディスアベバで陸軍参謀総長が自宅で自らのボディードによって殺害された。アムハラ州では民族対立が深刻化しており、参謀総長はその対応を指揮していたという。

 事件の詳細はまだ判明していないが、その背景にはアビー首相就任後の和解路線で、これまで刑務所に収監されていた民族運動のリーダーが釈放されたことがあるらしい。このクーデター未遂事件によって、エチオピア全土でインターネットは一時かんぜんに使用できなくなった。

 私は1カ月ほど前にエチオピアを旅行し、アディスアベバだけでなく、クーデターの舞台になったバハルダールも訪れている。もっとも、こんな事件が起きる予兆にはまったく気づかなかったが。

クーデター未遂事件が起きたバハルダール          (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

 

 バハルダールは青ナイルの源流でもあるタナ湖に面し、近くにはファラシャ(流れ者)と呼ばれるエチオピアのユダヤ人共同体が点在していた。タナ湖には、ユダヤ教とキリスト教にとって計り知れない価値のある聖遺物が運び込まれたという伝承がある。それは、預言者モーゼがシナイ山で神から授かった十戒の石版を収めたアーク(聖櫃)だ。

[参考記事]
●映画『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』で描かれたモーセの十戒を刻んだアークはエチオピアにあるのか?

『神の刻印』に書かれたアークに関する推理は一部を除いて説得力がある

 失われたアークについてもっとも詳細に調べたのはイギリスのジャーナリスト、グラハム・ハンコックで、その成果は『神の刻印』(凱風社)にまとめられている。ハンコックはいうまでもなく、日本を含む世界じゅうでベストセラーとなった『神々の指紋』(翔泳社)で有名だ。日本では刊行順が逆になったが、『神の刻印』はその3年前に書かれ、『エコノミスト』誌東アフリカ特派員としてアフリカの援助問題などをテーマにしていたハンコックがはじめて古代史に挑んだ記念すべき作品だ。

 とはいえ、今回エチオピアを旅するまで、ハンコックの著作を読んだことはなかった。1万2000年以上前に地球上に高度な文明が存在し、その記憶(痕跡)からエジプトやアンデスなどの古代文明が生まれたという筋書きは知ってはいたものの、その真偽が私のような門外漢にわかるはずはなく敬して遠ざけてきたのだ。

 この「超古代文明」説は、『神の刻印』ですでに萌芽が見られる。

 旧約聖書によれば、アークには敵を一瞬して破壊してしまう凄まじいちからがあり、近づいた者に死を招く。だから純金の板で覆い、垂れ幕の奥の至聖所に安置し、ごく一部の者以外はそこに入らないようにしなければならない。

エチオピアの教会の至聖所。アークはこの奥にある?  (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

 

 ここからハンコックは、モーゼは高位の魔術師であり、シナイ山頂にあるなんらかの特殊な鉱物をアークに納めたのではないかと考える。イスラエルの民を残して一人山に登ったのは、不用意にその鉱物に近づくと生命が危険にさられるからだ。

 山から降りたモーゼが見たのは、黄金の子牛にいけにえを捧げ、その前で踊ったり拝んだりする冒瀆の徒と化した群衆だった。旧約聖書によれば、怒りのあまりモーゼは神から授かった石版を打ち砕き、黄金の子牛を始末して偶像崇拝者3000人を処刑したあと、ふたたびシナイ山に登って第二の石版を携えて戻ってくる。

 この有名な旧約聖書の記述を、ハンコックは筋が通らないと考える。いくら激怒したとしても、神から直接手渡された十戒の石版を打ち砕くなどということができるはずはないからだ。

 だとしたら、モーゼが最初に持って帰った第一の石版は“不良品”で、それに気づいてもういちど山に登ったのではないだろうか。第二の石版とともにイスラエルの民の前に現われたモーゼは、「顔の肌が光を放っていた」と「出エジプト記」にはある。

 ここから、「石版」とはじつはシナイ山に落ちた隕石のことで、それは強い放射能を帯びていたのではないか、とハンコックは推理する。だからこそモーゼの顔は光ったのであり、アークに不用意に近づく者は死にいたる病に倒れたのであり、ひとたびそれを敵に向ければ「大量破壊兵器」にもなったのだ。

 高位の魔術師であったモーゼは、エジプトで放射能の扱い方を学んでいた。アレクサンドリアの図書館には、超古代文明が残したさまざまな知識が収蔵されていたのだ。シナイ山で「四〇日四〇夜」ヤハウェ(神)とともに過ごしたというのは、その間、一人で「恐るべき機械」をつくっていたからなのだ……。

 ここまで読んで、ほとんどのひとは「バカバカしい」と思っただろう。もしもアークが強力な放射能を帯びているのなら、それを敵に向ける前にイスラエルの民が先に死んでしまうはずだ。なぜなら彼らは、アークを担いで荒野を放浪していたのだから。

 この荒唐無稽な話を先に紹介したのには理由がある。『神の刻印』でハンコックが開陳するさまざまな推理は、じつはアーク=原子力兵器説以外はかなり説得力があるのだ。これが(一部の)古代史専門家からハンコックが評価される理由になっている。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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