橘玲の世界投資見聞録 2019年7月4日

世界的ベストセラー『神の刻印』に書かれた
アークの行方はどこまで正しいのか?
【橘玲の世界投資見聞録】

 

テンプル騎士団の一部はアークを追ってエチオピアに向かったはず

 十字軍の遠征によって、1099年から1187年までの88年間にわたってキリスト教徒の軍隊がエルサレムを占領した。この時期に高度なイスラーム文明に触れたことがルネッサンスにつながったことは、すでに多くの研究がある。

 ハンコックが注目するのは、1119年(エルサレム占領から20年後)にテンプル騎士団の9人の騎士(全員がフランス貴族)がエルサレム入りし、かつてソロモン神殿のあった場所を占拠したことだ。その目的については詳らかにされていないが、ハンコックは、ソロモン神殿跡を独占的に発掘することで、テンプル騎士団はとてつもないものを発見しようとする野望に駆り立てられていたのではないかと考える。「とてつもないもの」とは、もちろんアークだ。

エルサレムの神殿の丘                 (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

 

 もうひとつ、あまり知られていないことだが、1160年にのちにエチオピア王となるラリベラ王子が、エチオピア王で異母兄でもあるハルバイの迫害を逃れてエルサレムに政治亡命した。もちろん王子が一人でやってくるわけはなく、多数のエチオピア人キリスト教徒が随行しただろう。

 より興味深いのは、それ以前にすでにエルサレムにはエチオピア人のキリスト教徒やユダヤ教徒の大きなコミュニティがあったにちがいないことだ(だからラリベラ王子はエルサレムに亡命した)。当然、聖地を“奪還”したヨーロッパの騎士たちは彼らと接触したはずだ。

 プレスター・ジョンはアジア・アフリカのどこかに存在する伝説のキリスト教国の国王で、大航海時代のヨーロッパ人のロマンをかきたてた。この伝説がヨーロッパに広まりはじめるのは1145年頃で、これはエルサレム占領からおよそ半世紀後だ。ヨーロッパ人がエルサレムではじめて黒い肌のキリスト教徒に出会ったことで「伝説」がつくられたと考えるのは理にかなっている(プレスター・ジョンの国は「インド」にあるとされたが、当時はヨーロッパと北アフリカ、中東以外の辺境はすべて「インド」と総称されていた)。

 エチオピアのユダヤ教徒やキリスト教徒のあいだでは、アークはソロモン神殿から密かにエチオピアのアクスムに持ち出されたとされる。十字軍の頃にはすでにアーク伝説は成立していたから、ソロモン神殿跡を発掘していたテンプル騎士団も当然、この話を知ったにちがいない。

 ここからハンコックは、神殿の地下をどれだけ掘ってもアークが見つからなかったとすれば(たぶんそうだろう)、テンプル騎士団の一部はアークを追ってエチオピアに向かったはずだと考える。

 これはきわめて魅力的だし、説得力のある推理だ。それがテンプル騎士団かどうかは別として、「神」に取りつかれてはるばるエルサレムまで遠征した騎士が、謎のキリスト教国やアークの伝説を聞いて、「なるほど、面白い」と思っただけでなにもしないなどということは考えられない。

 ラリベラ王子は1185年にエチオピアに戻って王位につき、自らの名を冠したラリベラに「エルサレム」を創造しようとする。これが今日に残る石窟教会群だが、その精巧な建築が可能になったのは亡命中にイスラームの高度な技術を習得したからだろう。

 だがハンコックは、テンプル騎士団は技術者(建築家)集団で、ラリベラ王とともにエチオピアに渡り、教会建設に協力したのではないかという。残った騎士はヨーロッパに戻ってゴシック建築の教会をつくり、フランス王フィリップによる容赦のない弾圧のあとはスコットランドに逃れてフリーメーソンとなった。

ラリベラの精巧な石造教会はテンプル騎士団がつくった?  (Photo:ⒸAlt Invest Com) 

 

 このようにしてテンプル騎士団のアーク伝説はフリーメーソンへと語り継がれていく。19世紀にナイルの水源をたどったスコットランド人ジェイムズ・ブルースもメーソンで(これは事実)、その真の目的は失われたアークを見つけることだった……。

 このあたりになると私には真偽は判別できないが、すべてを「陰謀史観」と一笑に付すことはできないだろう。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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