リーダーに自己認識(セルフアウェアネス)が必要なことはよく知られるが、それだけで十分とはいえない。自己管理(セルフマネジメント)を行い、自分の行動を改善できなければ意味がないのだ。染み付いた習慣を変えることは容易ではないが、それを実践するための6つのステップを提示する。


 有能なリーダーであるために自己認識(セルフアウェアネス)が必要なことは、よく知られている。つまり、自分の強さと弱さ、感情、思考、価値観を理解して、周りの人にどのような影響を与えるかを認識しなければならない。

 ただし、それだけでは半分しか到達していない。自己認識は、それと同じくらい重要なスキルである自己管理(セルフマネジメント)を伴わなければ、役に立たないのだ。

 私のクライアントに、わかりやすいケースがある。彼(ここではリックと呼ぼう)は会議で発言が多すぎるうえ、長くしゃべりすぎると、繰り返し指摘されている。この振る舞いを改善し、より生産的なメンバーとして会議に参加して、チームの意思決定に貢献したいと本人は思っている。最近も15人が出席した会議で、30%はリックが話していたという。

 私は彼に自分の状況を評価してもらった。「自分がしゃべりすぎたことはわかっているが、指摘したいことがたくさんあった」と切り出したリックは、さらに自分の考えを話し続けた。自己認識はできているが、自己管理に問題があって、本来の能力を発揮できずにいるのだ。

 自己管理とは、自分の好みや習慣に反する選択を意識的に行い、より生産的な振る舞いをすることだ。そのためには、4つのステップがある。

1. 目の前のことに集中する
15分前に誰かが言ったことではなく、次の会議がどうなるかではなく、いま、目の前で起きていることに注意を向ける。

2. 自分を認識する
自分が見ていること、聞いていること、感じていること、やっていること、話していること、考えていることを意識する。

3. 振る舞いの選択肢の種類を知る
あなたは次に何をしたいのか?それぞれの行動はどんな結果をもたらす可能性があるか?あなたの選択に影響を与えるかもしれないフィードバックを受けたことは?あなたがやりたいことではない、あるいは普段ならやらないことだとしても、代わりの選択肢が考えられるか?

4. 最も生産的だと思われる振る舞いを意識して選択する
自分にとって最も簡単な振る舞いではないとしても、最善の結果を生みそうな振る舞いを選ぶ。

 リックの場合、自己管理のステップは次のようになる。

1. 目の前のことに集中する
「この会話に集中しよう。全員の発言をよく聞いて、いま起きていることに注意を向ける」

2. 自分を認識する
「私はどうしても、自分の考えをみんなと共有したい、自分が例を示したい。発言しようとしている人がたくさんいることもわかっている。私は会議でしゃべりすぎる傾向があり、そのせいでほかの人が話に入れなくなっている」

3. 振る舞いの選択肢の種類を知る
「自分の考えを説明する、役に立ちそうな質問をする、ほかの人にもそれぞれ自分の考えを話してもらう、あるいは黙って聞く」

4. 最も生産的だと思われる振る舞いを意識して選択する
「自分のコメントは控えて、ほかの人の言葉に耳を傾けよう。自分の考えを共有したくても、私はしゃべりすぎで、ほかの人に議論に参加する機会を与えていないと、繰り返し言われてきたのだ。いまは黙って耳を傾ければ、ほかの人に機会を与えることができる」

 自己管理が難しいのは、まさに自己を管理しなければならないからだ。最も生産的な振る舞いは、私たちの習慣や好みと合わない場合が多い(一致するなら、自己を管理する必要はないだろう)。

 自分の好みと合わない振る舞いをすると、落ち着かない(「質疑応答は、いつも真っ先に手を挙げる。ほかの人がしくじったら困る」)、自分が未熟だと感じる(「否定的なフィードバックを伝える方法がわからない」)、あるいは不快にさえ思う(「私は率直に物を言いたい。言葉を慎重に選んでいるとイライラしてくる」)。

 習慣と相容れない振る舞いも、似たような否定的な反応を招きやすい。私たちの脳の回路は、習慣に対応してショートカットを形成し、刺激を受けると考えずに反応して時間と労力を省こうとする。しかし、習慣ではない振る舞いは、状況を判断して、いくつかの選択肢を考慮し、選択してから、その選択に一致する振る舞いをしなければならない。

 このプロセスには労力が必要だ。習慣には自動操縦の効率性があるため、習慣を変えることは難しい。エネルギーを費やして新しい習慣をつくりだすより、古い習慣を規定のものとして受け入れるほうが、簡単であり快適でもある。

 しかし、このような壁はあるが、自己管理は学習して習得できるスキルだ。まずは、次のステップから始めてみよう。