5年ぶり高値の金価格が示唆する米ドルの衰退FRBパウエル議長の発言をきっかけに、米ドルの通貨価値の劣化が意識されはじめたことが、金の先高感につながっている(写真はイメージです) Photo:PIXTA

伝統的な金融政策の限界を
認めたパウエル議長

 人々が利息を生まないゴールド(金)をあえて保有するのには、いくつか理由がある。有史以来、世界中で精錬された金の地上在庫は約19万トン、オリンピック公式プールのわずか3杯強という希少性に加え、酸化による腐食がなく品質が劣化しないという耐久性から、永遠の輝きを放つ金は、権力者の力の象徴や宝飾品として重宝されてきた。また金は、誰の負債でもなく信用リスクが存在しないので、戦乱や国家体制の変更によってその価値が損なわれることもない。このように金は、価値の貯蔵手段として優れた性質を有する。

 足下のイラン情勢の緊迫化は、金の魅力を再認識させるには十分な出来事だ。安倍首相がイランを訪問した直後の6月13日、日本籍を含む2隻の船舶が何者かの攻撃を受けた。15日には米国の無人偵察機がイラン上空で撃墜され、20日にはトランプ大統領がイランへの報復攻撃を指示したが直前にその指示を撤回する事態に至った。さらにイランが2015年に国際社会と交わした核合意の規定量を上回るウラン貯蔵を進めていることも、核兵器再開発の懸念を煽っている。

 こうしたなか、金価格は5年来の上値抵抗線である1オンス=1360~1370ドルを力強く上抜けた。ただ筆者は、金価格上昇の背景にはイラン情勢の緊迫化だけでなく、もっと根本的な環境の変化があると考えている。それは米連邦準備制度理事会(FRB)が、金利操作を中心とする伝統的な金融政策の限界を認めたことだ。

 FRBパウエル議長は、6月4~5日にシカゴで行われたカンファレンスの冒頭で、リーマンショック後に行った非伝統的な金融政策について「もはや非伝統的という表現をやめるときだ。次の景気後退期にそのような政策が必要になる可能性は高い」と発言した。