注射を怖がる子ども子どもに注射の痛みを我慢させるのは仕方ないことなのでしょうか Photo:PIXTA

子どもが注射を打たれて大泣きしていても、かつては「仕方がない、我慢させるしかない」というのが一般的な考え方だった。ところが近年、子どもの注射の痛みは、身体的な痛みの体験に止まらず、恐怖体験として記憶に刻み付けられ、後々の医療行為全般に対して影響を与えることがわかってきた。小児医療の現場では、通常の検査や治療における痛みにどう対応しているのか? 日本小児科学会専門医、日本小児血液・がん学会指導医である聖路加国際病院小児科副医長の長谷川大輔医師に話を聞いた。(聞き手/ライター 羽根田真智)

テープ式「局所麻酔」の登場で
注射で暴れる、トラウマになる子は減少

――新生児や小児への注射の痛みに関する対応は、変わってきているのでしょうか?

長谷川大輔長谷川大輔(はせがわ・だいすけ)
1999年、東京医科大学卒業。東京医科大学病院小児科、東京大学医科学研究所附属病院小児細胞移植科を経て、2006年4月より聖路加国際病院。2015年より、小児科副医長。日本小児科学会専門医、日本血液学会専門医、日本小児血液・がん学会指導医、厚生労働省健康局長医師緩和ケア研修会修了。

 私が医師になった20年ほど前は、小児科の医療の現場において、注射をはじめとする通常の医療行為で生じる痛みについて、気を配っている風潮はあまりありませんでした。

 流れが変わってきたのは、10~15年ほど前からでしょうか。貼付用局所麻酔剤「ペンレステープ(一般名:リドカイン貼付剤)」が登場し、痛みを積極的に取るようになったのです。このテープは、針を刺す場所などにあらかじめ貼付し、約1時間後にはがすと、その部分に麻酔剤が浸透し、痛みを感じにくくなるものです。皮膚に点滴の針を刺す時や水イボを除去する時などに使われていました。

――注射の痛みは我慢しなくていいのでしょうか?

 痛みには、急性のものと慢性のものがあります。注射をはじめとする治療に伴う痛みは急性のもので、強烈な痛みとして記憶に残ります。それによってその後の痛みを実際よりももっと強い痛みとして捉えるようになることがあります。

 私が診ている小児がんの患者さんでも、針を刺す医療行為が定期的に行われます。例えば小児がんでもっとも多くを占める白血病ですと、骨髄検査といって腰の骨に針を刺し、骨髄に含まれる血液細胞を調べます。

 また、背骨の間から針を刺す腰椎穿刺(せんし)によって、直接髄液の中に薬を投与する方法も行われますが、お子さんにしてみると目で見えない背中に針を刺されることになります。細い針とはいえ、背中ですのでお子さんは何をされているかわからず、それだけでも恐怖を感じます。

 そして動かないように大人に押さえられる。暴れると危険なのでそうせざるを得ないわけですが、これでは恐怖体験として残っても仕方がないかもしれません。小児期に受けた腰椎穿刺がPTSD(心的外傷後ストレス障害)となって、大人になってからも背中を触られるだけで強く緊張される方もいらっしゃるようです。