Cassandra Garrison

[フフイ(アルゼンチン) 5日 ロイター] - アルゼンチン中心部から遠く離れた北部の州フフイ。中国の電気通信機器大手中興通訊(ZTE)<000063.SZ>が、アジアの巨大監視国家・中国が得意とするシステムの導入を進めている。地元の当局が「路上犯罪の抑制につながる」と称する監視カメラだ。

こうした比較的小規模で、ほとんど報道されることもない契約も、米国政府の神経を逆なでしている。米国政府は同盟国に対し、中国政府によるスパイ活動に利用される可能性があるとして、中国製のテクノロジーを購入しないよう警告を強めている。

ZTEは3月、フフイ州にカメラや監視センター、緊急サービス、電気通信インフラを提供する3000万ドル(約32億6000万円)近い規模の契約を結んだ。ZTEが最初に同州に売り込みをかけたのは3年前だ。

この契約が示すように、特に監視に関する中国製テクノロジーを利用することの危険性について米国が警告しているにもかかわらず、中国はラテンアメリカ地域のテクノロジー分野への浸透を深めている。

ブエノスアイレスに駐在する中国当局者はロイターに対し、フフイ州におけるプロジェクトは、他の都市に類似テクノロジーの採用を促し、中国がアルゼンチンのテクノロジー市場における存在感を拡大するうえで弾みとなるだろう、と語った。

米国務省西半球局の広報官は声明で、米国政府はフフイ州におけるZTEのプロジェクトについて「懸念を抱いている」と述べた。

「中国は比類のない規模でデータの収集と利用を進め、その情報を腐敗の誘発、恣意(しい)的な監視の支援、反体制派の抑圧に使っている」とこの広報官は述べている。

このプロジェクトに対する米国の懸念からも分るように、米国は、中国のセキュリティ関連テクノロジーの世界拡散を抑制する取組みの一環として、規模の大小を問わず、こうした契約を精査している。

米国は、同盟国に対する警告を裏付けるような証拠をほとんど示しておらず、アルゼンチンと中国両国の当局者は、ロイターによるインタビューや声明のなかで、フフイ州でのプロジェクトに対する懸念を一蹴している。

アルゼンチンでの存在感は限定的なZTEは、ラテンアメリカ地域における監視テクノロジー関連プロジェクトに関する自社データの提供や、この記事に対するコメントを拒否している。

<米国の指摘は「馬鹿げている」か>

フフイ州の州都であるサン・サルバドール・デ・フフイ市で5月に開催されたイベントで、ZTEのアルゼンチン担当ゼネラルマネジャーを務めるデニス・ワン氏は、ヘラルド・モラレス州知事や州治安担当相、警察当局者と並んでプレゼンテーションを行い、同社のテクノロジーが中国における犯罪率の低下にどれだけ貢献したか説明した。

それでなくとも、フフイ州と中国の縁は深い。ある中国企業がフフイ州におけるリチウム採掘事業に大きな投資を行っているし、ラテンアメリカ地域で最大級のメガソーラー施設に対しても、中国が資金と技術面で協力している。

このプレゼンテーションに関する発表のなかで、州政府は、同州が「中国並みに安全」になれる、と表明した。

中国の犯罪率低下をもたらした要因の一端は、監視カメラや顔認識ソフトウェア、住民データベースといった監視体制の広がりと、政権を握る共産党の支配下で高い有罪判決率を示す裁判所にある。

確かに、米国や英国など多くの民主主義国家の当局も、監視テクノロジーを幅広く利用している。だが人権擁護団体によれば、中国はこうした能力を、自国民の不満や抗議活動を抑圧するために悪用しているという。

中国は、北西部の新疆ウイグル自治区で本格的な映像監視システムを構築し、スマートフォン監視テクノロジーを導入している。この地域では、100万人以上のウイグル族やその他のムスリムが、職業訓練センターと称する施設に抑留されている。政府調達資料によれば、ZTEとその関連企業も、新疆ウイグル自治区の監視インフラを含む中国国内の監視プロジェクトの構築に深く関わっている。

ブエノスアイレス駐在の中国当局者は、米国政府が示す懸念は、次世代高速通信規格「5G」競争で優位に立つZTEや華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]など、中国企業の成功に不安を抱いているだけだ、と斬って捨てる。

この当局者は、ラテンアメリカ諸国では治安改善のニーズが高まっており、それによって、中国の監視テクノロジーを競争力ある価格で提供するチャンスが生まれていると語る。

中国外務省は、中国が自国企業の収集したデータを利用しているという米国の非難は「馬鹿げている」という。同省は、中国は「インターネット・セキュリティの断固とした擁護者」だとしている。

アルゼンチンにとって中国は主要貿易相手国であり、同国向けの投資も多く、重要な同盟国であって脅威ではないと見られている。国内ではフフイ州の契約を懸念する声は聞こえない。

アルゼンチン外務省は、米国の懸念に関するコメントを拒否している。

<街の安全と引き換えに>

フフイ州当局者が、手頃な価格の中国製テクノロジーの採用に前向きなのには理由がある。フフイ州はアルゼンチンで最も貧しい州の1つであり、犯罪率も全国平均をやや上回る。

州治安担当相のエケル・メイエル氏氏は、サン・サルバドール・デ・フフイ市で行われたインタビューで、住民は街中の治安改善と引き替えに、監視カメラを受け入れていると話す。

メイエル担当相は、顔認識技術を導入してシステムを強化することで、さらに治安を向上させたいと考えている。中国はこの技術を自国の監視網の一部として展開している。

メイエル氏は、法を遵守している市民ならば監視システムを恐れる必要はまったくない、と言う。「システムは、善良な市民を守るものだ」と彼は言う。

州政府によれば、ZTEはすでに地元の市営公園に小規模なテストゾーンを設けており、9月にはプロジェクト第1フェーズ用の機材が到着するという。

フフイ州のプロジェクトをよく知る関係者によれば、州政府当局者は、このテクノロジーに関して、いかなる種類の脆弱性評価も実施していないという。

プライバシーや個人情報保護が専門の国連特別報告者、ジョゼフ・カナタチ氏は先日、アルゼンチンでロイターの取材に応じ、この国はセキュリティ関連機器・ソフトウェアの検査を改善する必要があると語った。

カナタチ氏は「どこから調達するかはともかく、調達先のベンダーが信頼できると思い込むべきではない」と述べ、人々のプライバシー権が侵害されていないことを確認するため、国連が推奨する検査に言及した。

<テクノロジーをめぐる米中の争い>

米中両国は長引く貿易紛争の最中にあり、特に問題になっているのがテクノロジー分野だ。中国企業から機器を調達することを禁じた措置は大きな打撃をもたらし、ZTEにも影響が及んだ。その後、米政府の狙いは、さらに規模の大きいファーウェイに向けられた。

米国は世界中の他国に対しても、中国製技術の採用を避けるよう公然と要請するようになった。今年初めにラテンアメリカを歴訪したポンペオ国務長官も、そう警告していた。

「中国共産党は機器やサービスの輸出を通じて、ラテンアメリカ諸国全体で天安門のような抑圧を促進しようとしている」と、米国政府当局者はロイターに語る。

中国は1989年、北京の天安門広場に集まった抗議学生に対して流血を伴う弾圧を実施し、人権団体によれば、数千名の死者が出た可能性があるとされている。

「何らかの機器の調達を決定すれば、米国との関係に長く影響するだろう」と、米政府関係者は言う。

だがラテンアメリカ諸国は、こうした米国の警告に耳を傾けていないようだ。

ZTEはベネズエラで、マドゥロ大統領が展開する「祖国カード」と称するスマートカード身分証明システムを支援している。このカードは、所持者のデータをZTEのサーバーに送信しており、政府によって食糧配給や医療その他の社会制度へのリンクが強化されつつある。

エクアドルは、ファーウェイと中国電子進出口有限公司(CEIEC)が4000台以上のカメラを使った監視システムを構築し、2011年に導入した。ウルグアイ政府は今年2月、中国からファーウェイ製の防犯カメラ2100台が贈られると発表した。4つの都市に設置するという。

トランプ米大統領がファーウェイ排除を求めたブラジルも6月、5Gネットワークの運営から中国企業を排除する考えがないことをモウロン副大統領が表明した。

中国がグローバルな影響力を強めつつある一方で、米国はラテンアメリカという天然資源に恵まれた地域から目を離してしまっていた、と専門家はみている。

ユーラシア・グループのポール・トリオロ氏は、「チーム・チャイナは、非常にリーズナブルな価格と有利な融資条件のもとで、優れたテクノロジーを提供している。これはかなり説得力の高いパッケージで、実は米国にはこれに対抗する選択肢がない」と話す。

(翻訳:エァクレーレン)