昨今、妊婦の健康状態の改善は目覚ましく、出産によって亡くなる女性の数は着実に減少している。ただし、米国は例外であり、妊産婦死亡率が上昇している。企業が、従業員やその家族がそうした悲劇を経験しないよう努力することは、単なる社会貢献にとどまらず、経営上のメリットも大きい。筆者は、雇用主が実践すべき4つの働きかけを提示する。


 全世界で妊婦の健康状態の改善は目覚ましく、出産で死亡する女性の数は過去30年間で着実に減少した。だが米国では、その朗報に水を差す現状が見られる。先進国の中で唯一、同国の妊産婦死亡率は着実に上昇しているのだ。

 米国では、年間で妊娠する女性の半数以上が雇用主提供の医療保険に加入している事実を踏まえると、雇用主は、より質の高い医療を求める立場にいる。本稿では、雇用主がみずからの医療保険の購買力を行使して喚起する行動をアドバイスする。

 米国の妊産婦死亡率は、1991年における生児出生10万件当たり10.3から、2014年の23.8へと、2倍を上回る上昇を示した。

 米国では1年につき700人以上の女性が妊娠関連の合併症で毎年命を落としており、これらの死亡のうちの3分の2は防ぎ得たものである。5万人もの女性が、妊娠合併症で生命の危険にさらされている。米国の財団であるコモンウェルス・ファンドが2018年12月に発表した報告によれば、11の高所得国の中で、米国の女性は妊娠合併症で死亡するリスクが最も高いという。

 さらに悪いことに、そこには大きな格差がある。黒人女性は白人女性よりも、教育や所得、その他のあらゆる社会経済的要因に関わらず、出産で死亡する可能性が3~4倍高い。これが、米国が他の富裕な国々に大きく後れている第1の理由である。WHO(世界保健機関)によれば、米国の黒人妊婦は、メキシコやウズベキスタンの妊婦と同じ割合で命を落としている。

 これらの統計値のいくつかは、帝王切開出産により説明が可能である。帝王切開出産はリスクを高め、金銭的な負担も大きくなるが、米国では必要以上に頻繁に行われている。2015年時点で、米国の各病院における帝王切開の比率は、出産の7%というところから70%という驚異的な数字まで、大きな開きがある。

 人種による違いも見られる。たとえば、非ヒスパニック系黒人女性における出産の36%は帝王切開であるのに対し、非ヒスパニック系白人女性では30.9%である。これは、医療専門家が有意と見なす差異だ。

 加えて、女性はひとたび帝王切開を経験すると、その後の出産も帝王切開となる可能性がはるかに高くなる。その理由の1つとして、帝王切開を経験した女性に対して(たとえ安全に実施できるとしても)普通分娩を行う医療機関を見つけるのが困難となりうることが挙げられる。

 ビジネス界は、医療保険の購買力を駆使して妊娠・出産のケアを向上させる、独自のチャンスを擁している。帝王切開とその合併症のリスクからは、生命の危険だけでなく、雇用主と従業員にとっては甚大かつ無駄な金銭コストの負担が生じる。

 事実、IBMマーケットスキャン・リサーチ・データベースのデータによれば、帝王切開は普通分娩と比べて、1件につき、雇用主が平均で5100ドル以上多く負担するという。

 雇用主提供の医療保険では毎年190万件の出産があるので、現在の帝王切開出産の割合である32%から、わずか1%減少するだけでも、約9700万ドルのコスト削減となる計算だ。米国政府の施策である「ヘルシー・ピープル2020」の目標値に近い23%まで割合を下げられれば、10億ドルを上回る削減を達成することになり、しかも健康な母子が増えることになる。

 では、雇用主にはいったい何ができるのだろうか。