オーセンティシティという言葉の使われ方は非常に曖昧である。あるカテゴリーやジャンルに対する「らしさ」なのか、それとも特定の価値観に対する「らしさ」なのか、自社に関するオーセンティシティの評価を取り違えてしまうと、自分たちの価値を消費者に正しく伝えることができず、せっかくの努力が裏目に出ることもあるという。

 昨今、我々はなにかとオーセンティシティ(authenticity)を気にするようになった。仕事、リーダー、体験、さらには商品に関してまでも、オーセンティックなもの、すなわち本物、正統、正直なものに価値を見出すようになっている。

 だが、オーセンティシティに気づいたとき、人はどのように反応するのだろうか。オーセンティックだと多少高くてもお金を出すのだろうか。レビューでは高く評価するのだろうか。最新の調査から、どのタイプのオーセンティシティを感じたかによって、人々の反応が変わることがわかった。

「オーセンティシティ」の2つの意味

 この言葉は頻繁に使われるようになったが、ひと言でオーセンティシティと言っても、それが組織や商品、例えばレストランやそこでの食事の何を表しているかは、場合によって大きく異なる。

 一例として、ニューヨークのフードシーンを考えてみよう。ランドマーク的な存在のレストラン、ブルックリンの「ディファーラズピッツァ」と、グリニッチビレッジの「ブルーヒル」は、どちらも批評家、一般消費者のいずれからもオーセンティックな店だと賞賛されている。しかし、このオーセンティックという言葉は、ディファーラズとブルーヒルとでは違うものを指している。

 ニューヨークに来て最もオーセンティックなピザを食べたいという人がインターネットで繰り返し目にするのが、「何を頼んでもオーセンティック」だというブルックリンにある、ディファーラズピッツァのレビューだ。ここでいうオーセンティックは、社会通念化されているカテゴリーやジャンル(この場合はニューヨークピザの店)「そのもの」であるという意味だ。同店のピザ職人ドメニコ・デマルコは、ナポリ近郊の小さな町からの移民で、生地の薄い伝統的なピザを1964年からつくり続けてきた。

 これと対照的なのが、ブルーヒル・アット・ストーンバーンズである。フォーブズ・トラベルガイドによれば、「持続可能なフードシステム」を目指し、ファーム・トゥ・テーブル(farm-to-table)の食材にこだわった「ハドソンバレーのオーセンティックな食体験」を提供している。この場合のオーセンティックは価値観に由来し、そのルーツは実存哲学や社会心理学にある。価値観に基づくオーセンティシティは、個人の信念や組織の理念が正直に表現されていることに関係している。

 このように2つの意味合いがあることは以前から認識されていたが、どちらのタイプのオーセンティシティが感じられたかによって、消費者の反応が変わるかどうかについては、これまでほとんど研究されてこなかった。我々が今回実施した4つの調査では、反応が変わることを示唆する結果が得られた。