絶望

7年連続で国の賃金基準が上昇
それでも下請けの賃金が上がらないカラクリ

「ルールだから。罰金5000円出してね」。東京五輪・パラリンピックで選手村として使った後はマンションになる東京・晴海の「HARUMI FLAG」の工事現場では、罰金制度が横行していた。

 五輪用の大きな施設ともなれば、大勢の職人が現場に集まる。従って業者専用の駐車場が敷地内や工事現場のそばに用意されるが、ただではなかった。

 1日に1台1000円を徴収される。その上、HARUMI FLAGの現場では罰金を取られる。

建設中のHARUMI FLAG建設中のHARUMI FLAG Photo by Satoru Okada

 現場の専用駐車場に止める車は、フロントガラスから見えるように「駐車票」を置く決まりがある。元請けとなるゼネコンによってカードの色が分かれ、業者名や車のナンバー、電話番号などを書き込んだものだ。

 車に熱がこもらないように少し窓を開けておくと、風が入ってこのカードがひっくり返ってしまうことがある。これは違反となって、5000円の罰金である。下請け同士の応援でたまたまやって来た大工などは厳しい決まりが分からず、違反の対象になりやすい。

「応援の分までかぶって4回も罰金を払わされた」というある下請け業者は、都外から現場に通っている。単価が高い東京の仕事ではあるが、駐車場代や高速道路代を払えば地元での1日の稼ぎを割り込む。その上に罰金。これではまるでもうからない。

 このような罰金制度を元請けのゼネコンがつくったわけではない。元請けの協力会社である各業者、各職種のリーダーとなる職長で構成された職長会によるもので、たまったカネは飲み会などに消えていく。

 最下層の下請け業者は、真正面から職長会に文句を言いづらい。しかし、腹に据えかねた下請け業者が元請けに直訴し、最近ようやく制度の廃止にこぎ着けた。

資材運搬用のエレベーター使用料
1回9500円

 おかしなルールは現場によってさまざまなものがある。準大手ゼネコンが元請けの東京・六本木のビル建設現場では、喫煙者は喫煙シールを体に貼るルールがあり、シールが300円で販売されていた。貼り忘れて喫煙するとやはり罰金5000円。

 大手ゼネコンが元請けの東京・日比谷公園に近いビル建設現場では、資材運搬用のエレベーターの使用料が1回9500円。渋滞しないよう、使用できる時間帯が業者ごとに細かく設定されていた。払いたくなければ、エレベーターを使わずに階段を何往復もして重い物資を人力で運ぶ。

 さまざまな職人が出入りする現場には、統制を取るためのルールは必要だろう。しかし、罰金制度はまるでかつあげ。下請けいじめである。働き方改革が聞いてあきれる。