全く理解されなかった「カスタマーサクセス」

――Sansanを導入している企業は6000社を超えています。

 初期の顧客はIT系のスタートアップや中小企業がほとんどでしたが、近年では三井住友銀行や電通など、大企業での全社的な導入が増えています。Sansanが目指すのは、企業のあらゆる外交記録を管理し、全ての社員が使用するビジネスプラットフォームです。会社全体での導入は大変ありがたいです。

――近年はSaaS企業が増えていますが、Sansanはこうした言葉がない頃からSaaSサービスの開発を続けてきました。

 Salesforceの活動を参考にしながら、手探りで改善を続けてきました。初期から注目している指標は、チャーンレート(解約率)。定額課金が基本のSaaSでは、ユーザーがサービスを長く利用するほど、ライフタイムバリュー(顧客1件ごとにもたらされる生涯価値)は高まります。そのため、解約率は非常に重要です。

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 解約率を下げるために、2008年よりサービス部で顧客獲得のための活動を開始しました。サービスの価値を知ってもらうためには、まず名刺を取り込んでもらわなければなりません。そのため、創業メンバーは客先を訪ねて名刺の読み込み作業をしていました。

 2012年にカスタマーサクセス部を発足し、全ての顧客に対して担当社員を割り振り、サポートしています。正確な調査ではないですが、カスタマーサクセス専門の部署を設立したのはおそらく国内企業で初だと思います。

 その後もオンラインサポートの導入や既存顧客向けの営業チームをカスタマーサクセス部内に組織するなどの拡張を続け、さまざまなデータを一元的に把握できるよう工夫しています。2019年5月期時点で、12ヵ月平均の月次解約率はわずか0.66%です。どれか1つの施策が大きく解約率の低減につながったというよりは、サブスクリプションビジネスのキモを早くから理解し、さまざまな施策を長年続けて顧客の成功を模索し続けたことが現在の結果につながっています。

 こうしたSaaSモデルならではの戦略は今でこそ有名になりましたが、創業当時はなかなか理解してもらえませんでした。「月額いくらのサービスを何人が利用していて、解約率何%なので、ライフタイムバリューはいくらになる。最初は赤字でも資金投下すべき」と説明しても、投資家ですら数字の意味をわかってくれない。ARR(Annual Recurring Revenue:年間計上収益)1億円になっても、買い切り型のソフトを開発する小さな企業と同じ扱いをされていました。