呼吸と呼吸の間が長くなっていき、そのうち呼吸をしなくなったので、もう息が止まったと思われました。
 その場にいた二人の息子さんも、そう感じたことと思います。
 そのとき急に、息子さん二人が遺産をめぐってケンカを始めたのです。
「長男だから多くもらう」と主張するお兄さんに対して、
「お母さんを実際に介護していた自分が多くもらって当然」と言う次男さん。

 私は言葉を失いました。
 何もこんなときにこんな場所で……。
 そう思っていたら、患者さんの呼吸が再開したのです。
 二人は、「えっ!?」という表情で母親を見つめていました。

 最後の最後で、息子さんたちのことが心配になってしまったのでしょうか。
 その患者さんは、その後2時間くらい呼吸を続けてから亡くなりました。

 この女性患者さんに限ったことではなく、患者さんは最期まで何かを感じ取っているのだと思っています。