人は生涯で9万時間を職場で過ごすことを考えると、その時間をいかに気持ちよく過ごせるかは重要である。ただし、幸福の追求を最大の目的にすることにはリスクが伴う。幸福感は永続するわけでなく、その反動で逆の感情を抱く可能性もあるからだ。筆者は、仕事には幸福ではなく「意義(働きがい)」を見出すべきだと言う。幸福感と働きがいはどう違うのか、意義を見出すために何をすればよいのか。


 仕事と幸福をテーマにした文献は多い――が、被雇用者の85%が仕事や会社に愛着や情熱を感じていないことを示すギャラップの統計を見ると、どうすればそれを感じられるのかをわかっている人は少ないようだ。

 人が生涯で平均して9万時間を職場で過ごすことを思えば、生計を立てるために費やす時間をいかに気持ちよく過ごすかを知ることは重要だ。しかし、これには裏がある。幸福を最大の目的にすると、結果的に、逆の感情を抱くことになる可能性がある。なぜなら、幸福感は(どんな感情もそうだが)永遠に続くものではなく、束の間のものだからだ。

 その代わりにどうするかというと、仕事に意味を見出せばよい。

 作家のエミリー・エスファハニ・スミスがあらまし書いているように、仕事や私生活で意味を重んじる人は、持続的な満足感を得る可能性が高い。調査によれば、仕事にやりがいを見出すことは、生産性、エンゲージメント、パフォーマンスを高めるうえで最も効果があるにもかかわらず、方法としてそれほど活用されていない。被雇用者1万2000人を対象としたある調査では、50%が仕事に意義や重要性を感じていないと回答したが、感じていると回答した人の仕事に対する満足度は1.7倍、仕事や会社に対する愛着・情熱は1.4倍、そしていまの会社に留まる可能性は3倍以上だった。

 転職を考えているエグゼクティブのコーチングを行っていると、仕事にもっとやりがいがほしいというクライアントの声をよく聞く。

 たとえばジョン(仮名)は、バイオテクノロジーの会社を立ち上げ、年商20億ドルにまで成長させた成功者だ。彼を別の企業のCEOに据えたくてうずうずしている投資家がいたが、ジョンは、そうしたはたから見て素晴らしいチャンスを目の前にしながらも、自分がより重視する医療の問題――これまで誰も解決できなかった問題――を解決したいのだと言った。トップとして呼ばれることは光栄だと感じつつも、彼は仕事への長期的な満足やエンゲージメントといった、より多くのものを仕事に求めていた。