【WSJ3分解説】GAFAでアップルだけが「個人データ」を手放す理由Photo:SOPA Images/gettyimages

米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の注目記事の要点を短時間でまとめ読みできてしまう「WSJ3分解説」。今回は、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と「個人データ」の関係にスポットを当てます。このテーマにおいてGAFAの中でも異彩を放つのが、「現代の石油」と呼ばれるデータをあえて手放すアップルです。その理由とは何なのでしょうか。(ダイヤモンド編集部副編集長 鈴木崇久)

「リクナビ問題」が証明した
個人データの利用価値

 今夏、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、就職活動生の同意を得ずに内定辞退率の予測を顧客企業に販売していたことが発覚し、大炎上しました。

 この「リクナビ問題」は、現代を生きる私たちにさまざまな論点を投げ掛けているように思えます。

 一つは、個人データが持つ「炎上力」とでもいうものです。やはり誰しも、プライバシーには敏感でしょう。特に今回は、利用者である就活生の同意を得ずに、就活という人生の一大イベントの結果を左右し得る個人データを、採用側である企業に販売していたという点が問題を大きくしました。

「採用活動の合否判定には使用していない」とデータ購入企業は口をそろえますが、額面通りに受け取る人は少ないのではないでしょうか。

 もう一つの論点は、「やはりデータはカネになる」ということです。リクナビの内定辞退率の予測データは、1社1年当たり数百万円という価格で販売されていたといいます。採用コストの見合いで考えれば、企業はそれくらいの金額を支払う価値があると判断したということです。

「データは現代の石油」という言葉の通りといえるでしょう。

 取り扱い方を間違えれば会社が傾くほどの信用問題へと波及し得るが、うまく活用できれば巨額の利益を生み出す――。この「もろ刃の剣」とどう付き合っていくかという問題は、世界を揺るがす存在と化した米国のITジャイアント、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)であっても手探り状態のようです。

 ただし、その中で、アップルの戦略は際立っています。プライバシーを重視する路線を打ち出し、GAFAの中での差別化を図ろうとしているのです。

 米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」の次のような記事がその一例です。

●「ウォール・ストリート・ジャーナル」より
>>アップル、Siri録音情報の管理強化へ

 この記事によると、アップルは8月28日、「スマートフォンなどで使う人工知能(AI)搭載の音声アシスタント「Siri(シリ)」と利用者のやりとりの録音を自動保存する慣行を打ち切ると表明」しました。

 事の発端は、「アップルの契約業者が医療情報などの内密な情報を定期的に聞き取っているとの英紙ガーディアンの報道」でした。人間の介在はわずかであったようですが、「氏名、住所、病状など慎重な取り扱いを要する情報が聞き取られていたことが判明した」ことで批判が集中。「Siriのやりとりの録音を初期設定で保存しないことなど、ソフトウエアを変更・更新」することになりました。

 WSJは、「高い理想を完全にはかなえていないと認識するに至った。そのことに謝罪する」というアップルのブログでのコメントも紹介しています。

 ただ、この記事だけを読むと、「世間から批判されたから対応しただけであって、アップルが顧客のプライバシーを重視しているかどうかはあやしい」と思うかもしれません。しかし、かねてアップルはそうした姿勢をみせていました。