『ボクらを見る目』や『グローリー/明日への行進』を手がけたエヴァ・デュヴァネイは、いま最も注目を浴びる映画監督の一人である。白人男性監督による白人中心のストーリーが主流であったハリウッドにおいて、黒人の女性監督が黒人中心のストーリーを描いた作品が評価されたことは異例とも言える。筆者は、デュヴァネイが採用した3つの戦略は、すべてのイノベーターがブルー・オーシャンを発見して制覇するためのヒントになるという。


 9年前、エヴァ・デュヴァネイは企業の広報担当者だった。それがいまは、話題の映画監督だ。彼女が監督を務めたネットフリックスのミニドラマシリーズ『ボクらを見る目』は、5月末のリリースから1週間で2300万人の視聴数を記録。エミー賞でも16部門にノミネートされた。

 異例のキャリア、計画的なキャリアなど、彼女のたどってきた道のりについては、いろいろな呼び方があるだろう。だが、その選択と行動、生き方に目をこらすと、違うものが見えてくる。デュヴァネイは、あらゆる分野のイノベーターに、ブルー・オーシャンを制覇する方法を教えてくれる。

 ブルー・オーシャンは、成長と利益とイノベーションの活力源であり、大胆な人物が意外な視点を持つことで新しい顧客を発見した市場をいう。これに対してレッド・オーシャンは、既存の顧客がいる市場のことであり、どんどん小さくなる市場シェアをめぐり、各プロダクトがしのぎを削っている。

 現代のハリウッドは、レッド・オーシャン業界だ。約100年前に誕生して以来、米国の映画産業では、白人男性監督の指揮の下、白人キャストが白人中心のストーリーを描いてきた。それは観客や俳優、脚本家、そして監督の多様性が増しても変わらなかった。

 たとえば2016年、非白人は米国の人口の40%を占めたが、映画監督は87%が白人だった。同年、女性は人口の半分強を占めたが、映画監督の93%は男性だった。

 ハリウッドのレッド・オーシャンを形づくっているのは、人口構成だけではない。この業界自身の思い込みも大きく影響してきた。わずか10年前まで、「女性主人公のアクション映画は売れない」がハリウッドの常識だった。それが崩れたのは、ようやく『ハンガー・ゲーム』シリーズが2作連続で記録的な興行成績を上げたときだ。また、「黒人中心の映画は海外市場で売れない」も、長年ハリウッドの常識とされていた。ところが、『ブラックパンサー』は公開4週間の世界興行収入が10億ドルを超えた。

 レッド・オーシャンにおけるこうした思い込みこそが、ブルー・オーシャンの発見を妨げている。

 新しい市場は、それまでとはまったく異なる、徹底的に独自の視点を持てる場所に立ったときに初めて見つかる。ブルー・オーシャン市場は、この「オンリーワン」の中心スポットから、初めて垣間見ることができるのだ。

 アップルのスティーブ・ジョブズは、デザインを中心に据えることでテクノロジー業界のブルー・オーシャンを見つけた。ヒント・ウォーターのカーラ・ゴールディンは、健康を中心に据えることで炭酸飲料業界のブルー・オーシャンを見つけた。そしてエヴァ・デュヴァネイは、非白人を作品の中心に据えることで、映画業界とテレビ業界のブルー・オーシャンを見つけた。

 ブルー・オーシャンを制覇するためには、ブルー・オーシャンが存在すると信じる以上のことが必要である。すなわち、新しい船と、協力してくれる仲間、そして勢いと成長を後押しする潮流だ。デュヴァネイは、この3つすべてを手に入れる方法を教えてくれる最高の例である。