誰しも年を重ねる中で、身内や親友といった大切な人との死別を経験することになる。死別からどう立ち直るかはもちろん重要だが、予想される死に対する悲しみとどう向き合っていくかも同じくらい重要だ。こうした「予期悲嘆」をどのように受け止め、職場ではどう振る舞えばよいのか。筆者は5つのアドバイスを贈る。


 出張ラッシュが終わりに近づき、私は週末の4連休を楽しみにしていた。帰りの飛行機に乗り込もうとした矢先に電話が鳴った。母が入所している生活支援施設からだった。

 その電話番号を目にするといつも胃がきゅっとしたが、たいていは何事もなく、すぐに安心できた。だが、その時は違った。いつもなら「お母様は元気にお過ごしです。今日はお知らせがございまして……」と始まるはずが、今回は看護師にこう告げられた。「お母様が食事を食べなくなりました」

 母の15年越しのアルツハイマー病との闘いと人生は、終わりに近づいていた。かつて英語を教えていた母の語彙は、いまや一桁台になっていた。母のクオリティ・オブ・ライフが低下し続けていたのは知っていたが、それでもなお、死が間近に迫っているという知らせは腹にずしんときた。出張がちょうど一段落したおかげで、母に付き添って、できる限りの看病ができることが有り難かった。

 母、続いて親友があいだを1年も空けずに亡くなった。2人がもう長くないことはわかっていたので、自分が「予期悲嘆」――喪失後に経験するものとは別の種類の哀しみ――を経験したことも、驚くことではなかった。予期悲嘆は、これから起こる出来事を現実として受けとめ、喪失に備え、それと折り合うことだ。

 私たちの社会には、深く長く悲しむことを許す仕組みはない。忌引き休暇の日数は一般的に3~5日である。予期悲嘆に対する制度的なサポートは、さらに乏しい。

 私がコンサルティングを行っている多くの企業でも、私が実施したグリーフサポートに関する調査でも、大切な人を失いかけている従業員へのグリーフサポートを目的とした福利厚生に関するデータは見つかっていない。

 育児・看護・介護を対象としたファミリーケア休暇は、世界の企業のおよそ67%で導入されている。その中身は、数日の有給休暇が一般的であり、数週間かそれ以上の無給休暇が取得できる場合もある。

 米国では、Family and Medical Leave Act (FMLA:家族・医療休暇法)により、規定のファミリーケアに関して12週の休暇と職務復帰が保証されている。ただし無給であり、条件もある。たとえば、従業員50人以上の事業所に限られる。他の条件も含めると、この制度を受けられない人が多く、また受けられたとしても、経済的理由で無給休暇を取ることができない人も多い。

 それに加えて、死期が近いとわかっていても、それが具体的にいつかは予測できないし、この状態が長引くこともある。その期間、仕事を続けたい人や、続けなければならない人は多いだろうが、その前によく考えておきたいことがいくつかある。上司や同僚は、あなたが葬儀に出ているあいだは、あなたの仕事をカバーするつもりがあるだろうが、亡くなる前となると、どうだろう。どれだけの自由を許してくれるだろうか。

 置かれている状況や、反応の仕方は人それぞれだ。身近な人の死は、私たちの人生や人間関係にさまざまな影響を与える。時間も取られるし、精神的にも負担が大きい。そのため、仕事で疲弊することもあるが、それを緩和するために、予期悲嘆と仕事の負荷の両方をコントロールする方法がある。

 以下は、私が最近、予期悲嘆を経験しながら職場で実践したことに基づくアドバイスだ。