普及しづらい背景にある「日本人の固定観念」

 事例が増えつつあるとはいえ、海外に比べると日本では浸透しにくいのも事実だ。人事担当者がアルムナイの活用に前向きでも、決裁権を持つ役員クラスになった瞬間、昔ながらの「辞めること=裏切り」とする考え方で、実施に至らないケースもある。

「いまだにキャリアを会社に委ねるのが当たり前で、退職に対してネガティブな印象をもつ日本人も多くいます。企業側は退職者を裏切り者だと判断してしまいがちですし、退職者側も、辞めた会社と連絡を取るのは常識外れだと考えてしまうようです。『新入社員はお客様のように扱え』などと言う一方で、せっかく数年間育成した人材なのに『辞めたらおしまい』だなんて、もったいないですよね」(鈴木社長)

ライフステージに合わせて「出戻り」が可能

 コーセーの戦略ブランド事業部では、「アディクション」や「ジルスチュアート」といったブランドの美容スタッフ向けにアルムナイ制度を部分導入している。実際に導入を決めたコーセーの戦略ブランド事業部長・佐々木秀世氏は「新卒入社の社員は、研修をしっかり受けており、当社にとって大きな資産。戻ってきてくれたら、即戦力になる」と語る。

 美容スタッフは、全国で600人ほど。結婚や出産、転勤などの理由で退職するケースは後を絶たず、毎年2割が離職している。

コーセーのブランド戦略事業部長・佐々木秀世氏 Photo by K.H.

「20、30代の女性は特に、ライフステージが大きく変わる時期なので、退職も多いです。しかし以前から、退職して数年後に『結婚して落ち着いたので戻りたい』など、復帰を望む声がちらほらありました。“退職”とくくると1つの現象に過ぎないですが、理由は十人十色なんですよね。理由次第では、外の文化を知って戻ってくることが、むしろプラスになることもあります」(佐々木事業部長)

 やむを得ない理由で退職する人も多いことから、働ける環境さえ与えられれば、戻ってくる確率も高いのだ。しかし、退職者は前職の情報を得にくい。だがアルムナイが組織化されていれば、最新の採用情報も周知できる。

 例えば、ジルスチュアートは「少女らしい可愛さを引き出す」というコンセプトで20代をターゲットにしている。そのブランドの特性上、若い販売員が多く、ブランドと実年齢が合わなくなって退職する人も一定数いる。しかし、2018年にジルスチュアートの系統はそのままに、少し大人びたデザインを取り入れた姉妹ブランド「フローラノーティス」が誕生して以降、年齢を重ねた販売員がフローラノーティスに転籍するケースが増えているのだ。