人材こそ企業競争力の源泉、という傾向が強まっています。デジタルトランスフォーメーションが急務となる中、特にソフトウェアエンジニアリングなどの能力を備えた人材が不足し、争奪戦が激化しています。また、米国ではリーマンショック後のリストラ、日本では就職氷河期の影響などにより、社内のマネジャー層が脆弱という構造問題もあります。一方、テクノロジーの進化や採用関連のビッグデータにより、アルゴリズム活用の採用が浸透しています。その結果、新卒・中途の両方で採用活動のアウトソーシングが増え、コストが膨らんでいます。効果的な採用が最も重要な経営課題である今日、どのような戦略を取るべきかについて、今月号では特集しました。


 特集1は、採用活動に関する現状を細かく分析し、課題と対策を提示します。先入観を捨て、費用対効果を検証することが肝要と主張します。

 採用確率の高め方、社員による紹介法の課題と対策、採用エージェントの問題点、候補者のスキルのテスト法、面接の改善法などを、先進企業事例をもとに紹介します。筆者はこの分野での第一人者、本誌2018年7月号の特集「アジャイル人事」でも主筆の、ペンシルバニア大学ウォートンスクールのピーター・キャペリ教授です。

 特集2は、毎年50万人の応募がある世界有数の金融機関ゴールドマン・サックスが、新たに導入した「ビデオ面接」と「構造化面接」という選別法の効果を、採用責任者が詳述します。シリコンバレーのテクノロジー企業等との間で、非凡なエンジニア人材の争奪戦を強いられる中での画期的な面接法です。

 特集3は、人事や財務など職能部門の戦略性について論じます。最高級ホテル企業、フォーシーズンズ・ホテルズ・アンド・リゾーツが戦略的な人材採用・育成策を採ったことで、収益性を高めたケースを挙げ、職能部門の戦略が事業に好影響を与えることを示します。

 日本の先進企業の採用戦略を担当責任者が明かすのが、特集4(ソフトバンク)と特集5(メルカリ)です。

 ソフトバンクは、通信事業の活性化と新規事業の創出という経営転換の中、新たな採用施策を次々と打ち出し、その成果をデータで検証します。新卒学生の対象を広げて採用担当者が地方に出向いたり、人工知能(AI)を通じた採用を実施したり、採用でもPDCAを回して、よりよい方策を志向しています。

 メルカリは、急激な成長とグローバル化という同社特有の変化に不可欠な採用戦略を確立しています。的確な人材の応募が増えるように情報発信を工夫したり、面接官トレーニングを強化したり、人事戦略で定評の高いP&GとGEで合計22年間、人事施策を担ってきた筆者なればこその論考です。

 特集全体で、戦略採用の先進事例が明かされるため、経営者や採用担当者だけでなく、就職活動を迎える学生や転職希望者にとっても役に立つ内容です。