イノベーションやデジタルトランスフォーメーションの重要性が注目を浴びるように、企業には常に変化することが求められている。だが、従業員が仕事に集中できるようにするには、変化と同時に安定を実現しなければならない。組織やマネジャーを信頼して、従業員が安心して働ける環境をつくるために有効な心理上の3つのポイントを示す。


 職場が不安定だと感じながら、よい仕事をするのは難しい。たとえば、組織変更の真っ只中にいる人は、心理的資源――レジリエンスや自信など――が限界に達しているだろうし、先行き不透明な会社にいる人は、会社の将来だけでなく、自分自身の将来を気に病み、貴重なエネルギーを使ってしまうのは避けられないことだ。

 そうした状況では、多少の無理が必要な、リスクの大きい仕事を引き受けることには、どうしたって二の足を踏む。たとえその仕事が長い目で見て、自分のキャリアにも会社にも利益があることがわかっていても、である。会社基盤に対する信頼が揺らぐと、このようなことに陥りやすくなる。

 どの企業も安定と変化を両立させようとして、そのことに個人は振り回される。安定は、イノベーションやデジタルトランスフォーメーションの競争に紛れて、幾分注意を向けられなくなっているが、安定がもたらすメリットを再認識すべきことを示す、強力な理由がある。

 社員が仕事に熱中できる環境をつくるには、社員がいくつかの基本的な事柄について、会社を信用していることが必要になる。役割の明確さ、迅速なフィードバック、適切な資源配分、業務のあり方に対する関心、などである。

 たとえば小売業界では、スケジュールが流動的なのはよくないことだと認識されつつある。予定が立つほうが生産性が向上することが調査によって示されている。これは自明のことのように思えるかもしれないが、生産性や敏速性(アジャイル)といった話題に比べて、安定に関係することはほとんど注目されないのが一般的だ。だが興味深いことに、安定は、そうした他の良い特性の礎になる。心理的安全性がチームの効果性に関係することを発見したグーグルの「プロジェクト・アリストテレス」は、社員に実力を発揮させる方法を見直すことに関しては、「氷山の一角」でしかない可能性がある。

 個人と組織の安定は、これまでもずっと重要だった。それを企業が二の次にしてきただけである。だが、最低限の安定なくして、社員は本当に仕事に打ち込むことなどできるだろうか。安定についてよく考えずに、その重要性を認識せずに、企業は50年、100年、あるいはそれ以上存続することができるのだろうか。

 私は長年、組織開発に関するアドバイザーを務めてきたことで、いまでは「安定性」というメガネを通して仕事や企業を眺めるようになった。企業リーダー、マネジャー、社員個人との話し合いの中で、わかったことがある。それは、仕事とは、そしてプロジェクトの遂行能力とは、前進するために必要な確かな足場を見つけることであり、それがあって初めて力や強みをフルに発揮できるということだ。

 企業は、そろそろ安定の重要性を見直し、その向上にしっかりと投資すべきだろう。それには、企業としての使命や目標、それを実現する戦略を明確に伝えることが効果的である。

 しかし、私の経験では、企業が「緊急性の高い」問題に優先的に対処しているうちに、安定の拠り所はどんどん見過ごされていく。これを防ぐには、安定を意識の前面に持ってくるための協調した取り組みが必要であり、その考え方を個人のニーズに当てはめることが必要だ。それには、安定が日々の仕事にどのようなプラスの影響をもたらすのか、その役割を意識するための練習をする。

 その際には、次のポイントを考慮し、当てはめよう。