「売れない」――このことに苦労しているセールスパーソンは数えきれません。その一方で、確実に売上を伸ばし、常に上位の成績を誇っている人がいます。トップセールスと呼ばれる人たちです。営業に関連する本の多くは、著者の実績に紐づいた方法ですが、『3万5000人を指導してわかった質問型営業でトップセールスになる絶対法則』は、「トップセールスの共通点」を見出し、「トップセールスになる絶対法則」を伝えるものです。属人的な内容を「誰でも使える技術」としてまとめました。
本当にすごい人たちはいったい何をやっているのか? 極力わかりやすくお伝えすることに成功しました。AIやサブスクリプションなど、セールスパーソンを介さない営業手法は開発されていますが、セールスパーソンの役割は減るどころか、ますます重要性を増しています。ぜひ、最強の営業力を身につけて、営業を「楽しくうれしく感動的なもの」にしていきましょう。

トップセールスは、お客様に売るのではなく、<br />お客様に買ってもらう

お客様が必要性を感じ、
問題を解決できるとわかったから、お客様は買っていく

「売るのではなく、買ってもらう」

 私がセールスパーソンとして活動し始めたときに、アメリカの保険業界でトップセールスになった人から初めて聞いた言葉でした。

「売る」のはセールスパーソン。「買う」のはお客様。セールスは売っている間はダメなんだ、買ってもらうことができたときに初めて「セールスになる」ということを表現したものです。

 この言葉は、私にとって衝撃でした。「そうなんだ!」という驚きが生まれるのと同時に、「では、どうすればできるのか?」という疑問が湧きました。

 まわりのトップセールスを観察すると、確かに「売る」というよりも「買ってもらっている」ように感じました。

 何が違うのか。それは、「お客様を説得しない」ということでした。

 説得しない代わりに「お客様に納得を与える」のです。言い方を変えると、「お客様を動かそうとせず、お客様が自ら動くように仕向ける」です。「自ら動くように仕向ける」には、お客様に質問をして、お客様の中にある問題をその商品を買えば解決できることをわかってもらうことです。

 このような境地に、トップセールスはたどり着いているのです。では、なぜトップセールスはたどり着けるのか。

「そのほうが簡単だから」「楽だから」「短時間で済むから」、いろいろ理由はあったかもしれませんが、究極は「お客様が喜び、自分が気持ちいい」からです。

 嫌がられるセールスほど後味の悪いものはありません。たとえ契約しても、なんだか気持ちが晴れないというケースはあります。それは、お客様を強引に説得して契約したセールスです。契約していただいても、100%喜べないのです。たとえそれによって成績が上がったり、目標を達成したりしても、やはり喜べません。

「どのようなセールスが自分にとって気持ちいいか」「どんなときにお客様に喜んでもらえたか」がわかってくると、「お客様が納得して買う状況がベスト」だということにたどり着くのです。

 ここで面白いケースを紹介しましょう。

『セールスに勇気がわく本』(夏目志郎著、日本実業出版社)に、私が長い間、疑問を持ち続けていた一節があります。

 夏目さんは、ある講演会での出来事を本に書いています。この講演会の参加者が、夏目さんに「机の上の灰皿を私に売ってみて下さいませんか」と言うのです。

「どうしてあなたは、灰皿が欲しいのですか」
「私自身はそんなにタバコは吸わないんですが、オフィスに客が来たときにゆかに吸
殻をちらかすので、それで欲しいのです」
「そうすると目的はオフィスの清潔のためですか。あなたのお客さんに対してよいサービスを提供したいためですか。どっちですか」
 彼はちょっとまごつきました。私を試すために投げかけた質問でした。本人は灰皿を買おうなどとは本気で考えていなかったので、とっさに目的を絞りこめないようでした。
「どうですか。どっちですか。事務所の清潔のためですか」
 私の繰り返しての問いかけに彼はうなずきました。私はすかさず、
「そんな目的ならばよろしいですよ。どうぞ売ってあげますよ」
 と決めました。場内は爆笑しました。彼はいつのまにか灰皿を私に買わされたことに気がつき、頭を掻きながら一礼しました。

 私にとって、この一節は、いつまでも疑問のままでした。なぜ、こんなふうにお客様は買うことになるのか。一体何が起こっているのか。本当にそんなことになるのか。むしろ疑問が増えました。どちらにしろ、当時の私にはわかりませんでした。

 私は質問型営業を開発したときに、あらためて、この本を書棚から引っ張り出し、確認できました。

 本では、セールスパーソンが売るという言葉を使っていますが、実際は相手に買わせているのです。質問型営業に置き換えると、質問で「オフィスが汚れる」という問題点を引き出し、「事務所を清潔にしたい」という解決法を聞き出し、相手の欲求が顕在化したところで、クロージングしたのです。

 まさに、お客様に質問をして、お客様が必要性を感じ、問題を解決できるとわかったから、お客様は買ったのです。

 このように「お客様に買ってもらう」には、欲求を実現するために問題を解決することです。それを行っているセールスこそが、相手に喜ばれ、自分も喜べる、まさに自分が気持ちいいと思えるものになるのです。

今日の格言

トップセールスは
「売るのではなく、買ってもらう」ことで
お客様が喜んでいる姿を見て
自分が気持ちいいと感じることができる