世界のエグゼクティブが注目するEIシリーズ最新刊『セルフ・アウェアネス』の発刊記念イベントが2019年8月30日に開催された。自分に意識を傾けるセルフ・アウェアネス(自己認識)はリーダーシップを語るうえで外せない概念だとされているが、なぜなのか。巻頭の「なぜいま、セルフ・アウェアネスが求められているのか」を執筆した立教大学経営学部教授 中原淳氏の講演録をお届けする(構成:井上佐保子、写真:斉藤美春)。

リーダーシップのダークサイドに堕ちないために

「みなさん最近、セルフ・アウェアできてますかー(笑)?」。中原氏の講演はこんな問いかけから始まった。セルフ・アウェアネスとは、自己に意識を傾け、自分自身について深く理解すること。セルフ・アウェアネスは、いま、経営学の中で注目されているリーダーシップ理論、『オーセンティック・リーダーシップ』『シェアード・リーダーシップ』の両方に深い関わりがある、として、2つのリーダーシップについて話し始めた。

中原 淳(なかはら・じゅん)
立教大学経営学部教授(人材開発・組織開発)。立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。『職場学習論』『経営学習論』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長戦略』『アルバイトパート採用育成入門』ほか共編著多数。

「オーセンティック・リーダーシップ」とは、「自己を見つめ、自己を活かし、倫理を重視しつつ、誰にとっても透明性のある行動をとり、フォロワーが自ら動いてしまうような状況を生み出すリーダーの行動」のこと(詳しくはEIシリーズ『オーセンティック・リーダーシップ』を参照)。

 中原氏は、この「オーセンティック・リーダーシップ」が注目されている理由を、「世の中に、オーセンティック・リーダーシップとは正反対の、非オーセンティック・リーダーシップが蔓延しているからです。自己を見つめることなく、リーダーシップの本をききかじって学んだリーダー的な行動を都合よく取り入れ、効率重視・利益重視で倫理は二の次…。ナルシズムに陥り、自己中心的なダークマネジメントを行うリーダーに、嫌々ついていくフォロワー。残念ながら、こうした悲劇はあちこちで起きています」と話す。

 こうした"ダーク"なリーダーシップのあり方が問題視されるようになったのが、2001年に米国で起きたエンロンの不正会計事件だった。ビジネススクール出身のエリート経営者たちが、飽くなき利益追求の果てに起こしたこの事件以降、リーダー自身のあり方や倫理観にスポットが当たるようになった。中原氏は問いかける。

「心理学において『ダークトライアド(Dark Triad)』悪の3特性と言われるのが、(1)自己愛(ナルシズム、誇大性、自尊心肥大、共感欠如)、(2)マキャベリズム(人を操作、搾取、自己中心)、(3)サイコパシー(反社会的行動、衝動的、無反省)。みなさんの会社にはこうした特性を備えたダークリーダーはいませんか?」

「さすがに犯罪的なほどダークサイドに堕ちてしまったリーダーはいないと思いますが、これらのいくつかの要素が当てはまるために、部下がついていかない困ったリーダーはあちこちにいます。同じマネジメントを行っても、リーダー自身の『自己のあり方』がもたらす影響は大きいのです。自分を偽っている人、自分自身がわかっていない人に、人はついてきません。だからこそ、いま、セルフ・アウェアネスが重要とされているのです」