米国ではミドルクラス(中間層)が減少しているという指摘があるが、不思議なことに、サービス業をミドルクラスに引き上げるべきだという議論は起こらない。企業リーダーたちの多くが、サービス業を中間層の定職にふさわしい職業とは捉えておらず、それゆえに低賃金の現状を問題視しないのだ。だが、マサチューセッツ工科大学のゼイネップ・トン氏は、労働人口の多くがサービス業従事者である以上、その環境を改善することは必須だと指摘する。


 米国は、かつての健全なミドルクラス(中間層)を失いつつあり、それを何としても回復しなければならない。そのためにはどうするのか。製造業の雇用再生だと言う人もいれば、いまある富の再分配や、最低所得保障だと言う人もいる。学界は技能訓練や生涯学習を主張する。米国の主要企業のCEOでさえ、高給の仕事をつくる必要があると考えている。

 しかし、すでに存在している低賃金の職種――大部分がサービス業――の改善策については、ほとんど誰も語っていない。見識ある企業リーダーや思想的リーダーの中でさえ、そうした職はよりよい職に就くための足がかりであり、中間層の定職としてはふさわしくないと考えている人が少なくない。だが、これらの職を改善せずして、十分な規模のミドルクラスを築くことはできない。