「モテない」と感じた看板屋で“ビジネスの面白さ”を知る

――家業を継ぐことは、学生時代から想定していましたか。

 全く想定していませんでした。私は、新卒で投資会社のジャフコに入社して、企業のM&Aや事業再生に関わったんです。自分の決断で大きな金額が動くビジネスの面白さを知りました。本当に楽しかったです。残念ながら、1年たたずして退職し、2012年から家業に携わることになるのですが……。

――前代表の父親から継ぐように言われたのですか。

 そうです。幼い頃から厳格な父親に育てられたもので、父が「来い」と言えば、すぐにでも会社を辞めて行くほかないのです。

 自分の判断で大金が動くキラキラした業界から看板屋に身を移すわけですから、最初は「モテなくなるだろうな」と思いました。でも、徐々にレガシーな業界でビジネスをする面白さに気付いていきました。

――入社当時、クレストはどのような状況でしたか。

 日本の中小企業の経営を目の当たりにしました。大手企業ではすでに営業の仕組み化が進んでいましたが、中小企業では属人的で非効率な営業が当たり前だったのです。個々の営業活動の共有や結果分析が正確にできていない状態だったため、看板屋の事業を変えていくより前に、まず「営業と経営を科学する」必要性を強く感じました。

 そこで、私はその後7年間にわたり、ステップを踏んで段階的に改革をしていきました。その過程で考えた独自の理論を、“レガシー・マーケット・イノベーション”と呼んでいます。

――“レガシー・マーケット・イノベーション”について教えてください。

永井氏が提唱する「レガシー・マーケット・イノベーション」の図式 画像提供:クレスト 拡大画像表示

 レガシー産業を改革する際に有効な考え方です。レガシー企業を「生産性」の改革と「市場成長性」の改革の2段階に分けて変えていきます。この生産性の改革を“L(Legacy)の世界”、市場の成長性を“I(Innovation)の世界”と呼んでいます。

 まずは、マーケティングや営業をデジタル化して既存事業の「生産性」を上げること。次に、既存事業と新産業を掛け合わせることで、「成長性のある市場に参入する」こと。この過程を踏むことでイノベーションを起こすことができるというものです。

いきなり変革せず、まずは“なじむ”こと

――既存事業を再成長させる方法を教えてください。

 入社当初は「会社の文化になじみ、圧倒的な成果を残す」ことを心がけます。改革をしようと意気込んで入社する人の多くは、まだ会社になじまないうちに会社の欠点を社員に伝えたりしてしまったりして、嫌われ者になりやすいのです。

 他の社員から会社の愚痴を言われ、同意を求められた時も、同調しすぎてはいけません。決して自分からは会社のことを悪く言わないようにしながら、バランスの良い受け答えをするんです。そうすると、自然と会社にとって必要な人材になっていき、周囲から信頼されるようになります。

 私も今でこそ、改革者としてメディアに取り上げられる機会が増えましたが、入社当初は社員が作り上げた伝統に従い、既存の商品を既存の営業方法で売っていました。結果、いざ改革をしようとしたときには、自然と共感してもらえる状況が整っていました。私はこれを“オーガニックフィット戦略”と呼んでいます。

――どのようにしてその戦略を見つけたのですか。

 学生時代と読書でしょうか。私は昔から友達ができなかったので、「どうしたら友達が作れるか」を試行錯誤した末にこの戦略にたどり着きました。いかに自分の意見が正しいと思っても、まずは受け入れてもらわなければ、変えることはできません。

――クレストでは既存社員との関係性を構築した後に、具体的な改革をしたのですか。

 そうですね。みっちりと営業をデジタル化していきました。改革を進めた4年間、売上高は毎年30%ずつ増加していきました。

 改革前の営業部門には、そもそも「マーケティング」という概念がなかったので、CRMやマーケティングオートメーションツールなどを入れて、成約に至るまでのプロセスを事細かに分析できるようにしました。