――旧来の方法に慣れている社員に、新しい評価軸を浸透させるのは難しかったのではないですか。

 小さな成功体験を積み上げていけば、意外と簡単です。「メールの開封率が高い文章はこれだ」とか、「アポのかけ方で成約率がこう変わる」とか、どこのつまみをどういじれば、どれだけ成果が出るのかを自ら実践して見せました。すると、自然と浸透していきます。

既存事業を再成長させ、理念から変える

――商材は、既存のものですよね。

永井氏の著書『市場を変えろ 既存産業で奇跡を起こす経営戦略』(かんき出版・2019年9月19日)

 そうです。その時点では一切商材は変えずに、これまで通り、看板やショーウィンドウディスプレイのデザインや施工をしていました。まずは既存事業を最大限に成長させることに集中するんです。成長できたら、最後の仕上げとして「経営理念の変更」を行います。

――長年掲げてきた経営理念を変えるとなると、社員との摩擦が起こるのでは。

 クレストの場合は、経営理念が浸透していませんでした。そのため、理念の弱い組織に、理念を吹き込んだかたちですね。私の場合は、看板屋を世界に通用させる企業にするにはどうしたらいいのかを突き詰めて考え、「レガシー産業の価値向上」を理念に掲げました。

 もちろん、最初は受け入れてもらえませんでした。経営理念を変えるというのは、簡単ではありませんから。

 でも、ここでようやく、これまでのステップが生きてくるんです。きちんと段階を踏んで信頼と共感を得られていますから、いきなり理念を変えるより格段に浸透しやすくなっているんですね。

 そして、理念浸透までを終えることができたら、ようやくイノベーションを起こす準備が整います。

ビジネスモデルの洗い出し、肝は“バランス”

――「市場の成長性」がある場所に行く、第2フェーズの変革に移行するわけですね。

 そうです。私たちは2015年から、変革の後半戦に取り掛かることができました。既存の産業を組み合わせて、一番良いビジネスモデルを考えるんです。

――どのように、ビジネスモデルを見つけていきましたか。

 まず、ありとあらゆる可能性を洗い出し、看板事業と掛け合わせることのできる事業を、思いつく限り挙げていきました。50個以上のアイデアを出し、その中から、一番顧客が享受する価値の高いものを選出していきました。コスト面でのメリット、心理的価値、情報価値、収益価値など、顧客が価値を感じる基準を細かく項目化して、50のアイデアのどれが一番顧客価値につながるのか、スコアリングしていくんです。

 この理論のもと、既存の看板事業と掛け合わせて一番いいと割り出したのが、カメラ付きサイネージを活用し、ショーウィンドウから顧客の行動をトラッキング(記録)するビジネスでした。

――この事業を選んだ理由を教えてください。

 バランスです。既存事業の寿命予測をして、適切な距離を保てるものを掛けて合わせたのです。