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現代の企業には自動化やAIへの速やかな対応が迫られている。ただし、短期間の研修やノウハウの提供で事足りる状況ではない。既存の従業員をリスキリング(再教育)して、彼らが学習し続ける仕組みをつくることが不可欠である。本稿では、企業がリスキリングを効果的に行うための4つのステップを示す。


 長年、企業幹部の懸念材料として挙げられてきた「スキル・ギャップ」だが、自動化やAIの広がりを受け、主要大手――アマゾン、JPモルガン・チェース、SAP、ウォルマート、AT&Tをはじめとする多数の企業――が、その対策に乗り出している。それも小規模・試験的ではなく、一定条件に当てはまる従業員全体を対象とした、包括的な再訓練計画だ。

 こうした動きを見ると、「仕事の未来」は遠い先の話ではないことを実感する。すでに始まっているのだ。

 最近実施した調査によれば、米国経済における職業別構成比はすでに変化しており、その傾向は今後10年間で加速する。我々の推測では、完全に自動化可能な職業は全体の5%にすぎないが、ほぼすべての職種で仕事内容が進化すると見ている。肉体労働、反復作業、高い認知能力を必要としない単純作業の多くが、AI技術を搭載した機器に取って代わられるため、今後も生き残るのは、高度な技術やデジタルスキルと対人能力・創造性・判断力の双方に関係した仕事だと考えられる。

 こうしたスキルのプレミアムがどんどん増していくということは、企業が成長戦略の遂行に必要な人材を必ずしも採用できるとは限らないということだ。つまり、自社の中で人材を育てることが、ますます必要になってくる。このアプローチならば、自社内の仕事の進め方に関する知識や経験、企業文化に対する理解を絶やさずに、新たな能力を組織内に取り込むことが可能である。

 だがそれは、単発の研修を計画したり、ある特定の新しいソフトウェアの使い方を教えたりするのとはわけが違う。いま現在必要なタスクだけに注目していると、将来アジャイル(敏速)に動けない企業になってしまう危険性がある。技術の急速な変化や業界の衰退が起こっているこの時代、企業は学習し続ける方法――いまだけでなく持続的に――を知ることが不可欠だ。

 それには、どうしたらよいのだろうか。必要となるのは、次なる新しい本社機能、つまり「リスキリング(reskilling:再教育)」の構築である。

 この組織能力に財務、マーケティング、リスク管理と同等の地位を与え、制度化する。多くの企業では、教育訓練と評価を行う継続学習制度を本格的に導入し、これまで試した以上の規模で、より効果的に行う必要があるだろう。詳細はそれぞれに異なるだろうが、先駆的企業の取り組みから、いくつかの指針が示されつつある。