アメリカ・ヨーロッパ・中東・インドなど世界で活躍するビジネスパーソンには、現地の人々と正しくコミュニケーションするための「宗教の知識」が必要だ。しかし、日本人ビジネスパーソンが十分な宗教の知識を持っているとは言えず、自分では知らないうちに失敗を重ねていることも多いという。本連載では、世界94カ国で学んだ元外交官・山中俊之氏による著書、『ビジネスエリートの必須教養 世界5大宗教入門』(ダイヤモンド社)の内容から、ビジネスパーソンが世界で戦うために欠かせない宗教の知識をお伝えしていく。

外国人に「仏教ってどんな宗教?」と聞かれた時に使える「教養ある雑談ネタ」Photo: Adobe Stock

「空」の概念はビジネスエリートの思考訓練の素材

 初期仏教で釈尊が説いた「諸法無我」と一緒に話される概念が、大乗仏教でいう「空」(くう)です。

 自分というのは確かに存在しているように感じられますが、なぜ存在しているかを証明しようとすると難しい。たとえば、今、あなたが東京駅のホームに立っているとして、それは間違いなく事実だとします。

 しかし、その事実は「東京駅のホームがある」という事実に支えられており、「東京駅のホームがある」という事実は日本があり、地球があるという事実に支えられており、地球があるという事実は宇宙があるという事実に支えられています。

 ずっとたどっていくと、何かに支えられなければ、事実というものは存在しない。では、すべてを支える事実とは何かと言えば、わからないのです。

 そうであれば、実は何もないのと同じではないか……? ややレトリック的ですがこれが「空」の考え方です。

 空の概念は深遠で簡単に理解できるものではありません。しかし、「目の前にあるものを疑う」「本当は何もないのではないかという前提で考える」という点では、空はビジネスエリートにとっても必要な思考訓練のように思います。