「One for All, All for One 」
多様性を強みに変える

 筆者は、スイス・チューリッヒに本社があるフィンテック上場企業のオフィスを同社創業者に案内してもらう機会を得た。同社の従業員の出身国は、日本も含めた50以上であると説明を聞いたうえで、多様性は会社にとって良いことなのか質問した。創業者の彼は一瞬考えて、「もちろん、だってその方が色々な知恵が得られるでしょう」と答えた。

 スイスは人口800万人だが、1人当たりGDPは日本の倍だ。金融など付加価値の高い産業が多いためだけではなく、多様なバックグラウンドの優秀な外国人を成長のテコにしている可能性が高いと感じる。

 もちろん、すべての業種・業界で多様性が正しいとは言えないのかもしれない。一般に、組織の多様性は、組織の一体感とは相反する関係にあると言われる。多様性をベースにした創造性よりも、同質性をベースにした効率性を重視する業界も存在するだろう。しかし、効率性の追求が行き着く先は、際限のないコスト削減と低付加価値型ビジネスになりかねない。この結果、「日本でやらなくても、海外に移管した方が安い」ということになり、国内には付加価値の高い産業しか残らない。

 米アップルの広告の1つに「Design by Apple in California」というものがある。これはApple製品の付加価値が、台湾や中国での低コストの部品組立にあるのではなく、ユニークな商品設計にあるというメッセージだ。そして、付加価値の高い商品やサービスを生み出すためには、色々な知恵が生まれる「場」が必要であり、従業員の多様性がそのゆりかごとなる。

 スイスの会社やアップルは、多様性や創造性を企業の力に変えている成功例であろうが、多様性を組織の力に変えるためには何が必要だろうか。

 ラグビーの場合、出場メンバー15人は、フォワード陣(体が大きい)8名、ハーフ陣(小柄ですばしっこい)2名、バックス陣(足が速い)5名で構成され、それぞれ明確な役割が与えられている。ラグビー選手が整列する姿は、他の団体スポーツと比べ、ちょっと滑稽なくらいバラバラだが、これこそラグビーというスポーツの多様性を端的に示している。また、このバラバラな15人がプレーオンすると、不思議な一体感が生み出される。

 今回のW杯における日本代表チームの一体感は、特筆に値する。その一体感の源泉は、「ラグビーW杯日本大会でベスト8に勝ち残る」という明確かつ切実な目標であることは間違いない。この明確な目標があるため、1人1人の選手のプレーに迷いがない。日本中が熱狂しても、どこか恬淡とした風情を醸し出している。

 組織の多様性は、組織を外向けに分散させる力を生み出す、組織を内向きにまとめる接着剤がなければ、その組織は組織としての力を失う。今回のラグビー日本代表が見せてくれたのは、多様性のある組織(ダイバーシティ組織)が1つの目標に向かって団結する強さだ。

「One for All, All for One」という言葉は、1人1人が組織のために尽力し、組織全体は1つの目標に向かって団結するラグビーの姿勢を表している。ラグビーW杯代表チームは、「日本の未来を先取り」(リーチ・マイケル主将)するだけではなく、ダイバーシティ化する世界の未来を先取りしている。今回のラグビーW杯を大いに楽しみながらも、組織の未来図を皆さんも描いてみてはいかがだろうか。

(フィンテック・エンスージアスト/MBA講師 大前和徳)