『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』では毎月、さまざまな特集を実施しています。ここでは、最新号への理解をさらに深めていただけるよう、特集テーマに関連する過去の論文をご紹介します。

 DHBR2019年11月号の特集タイトルは「従業員エンゲージメント」である。

 人材の流動性がますます高まり、争奪戦が激化する時代にあって、競争優位の源泉である人材、すなわち従業員との関係をいかに維持すればよいのだろうか。企業が掲げるビジョンに共感してもらう一方で、従業員が能力を自発的に発揮し、働きがいを持ってもらう、双方向のマッチングが不可欠である。

 ADPリサーチ・インスティテュート人材・パフォーマンス部門長であり、『さぁ、才能(じぶん)に目覚めよう』などの著者マーカス・バッキンガム氏らによる「チームの力が従業員エンゲージメントを高める」では、筆者らが19カ国1万9000人以上を対象に実施した最新の従業員エンゲージメント調査に基づき、意外な結果が示される。エンゲージメントは組織文化や個人の資質に左右されるものではない。組織図には表れない「チームの力」にこそ、個々の意欲と能力を引き出すヒントがある。

 ハーバード・ビジネス・スクールのフランチェスカ・ジーノ教授による「即興コメディのテクニックでメンバーの意欲を引き出す」では、チームを活性化するリーダーのあり方が論じられる。従業員エンゲージメントを考えるうえで、チームの果たす役割が大きいということは確かだろうが、リーダーが威圧的なチームでは、メンバーは萎縮したりやる気を失ったりしてしまいがちだ。そして現実に、こうしたチームは多い。この課題を解決する方法として、筆者が本稿で提案するのが、即興コメディで使われるテクニックだ。

 ペンシルバニア大学ウォートンスクールのピーター・キャペリ教授らによる「エンゲージメント調査は万能ではない」では、調査手法そのものに関する議論が展開される。コンサルタントや経営者には、従業員エンゲージメント調査への期待と信頼が大きいようだ。しかし研究者の視点で、従業員の業績との関連性を見ると、必ずしもエンゲージメントの効果が明らかとはいえない。業績を高める意味では、給与水準や上司のマネジメントなど他の要因が強いからだ。

 サントリーホールディングスの新浪剛史社長へのインタビュー「リーダーには人を信じ抜く覚悟が必要である」では、そのリーダー哲学が語られる。新浪氏は、ローソン社長として同社の急成長を牽引したのち、2014年、創業家以外からは初めてサントリーの社長に就任した。サントリーは当時、ビーム買収に象徴されるようにグローバル化を積極的に進めており、異文化との統合をいかに果たすかが重要なミッションであった。新浪氏は経営者として、この困難な課題とどう向き合ったのか。

 ウイリス・タワーズワトソン取締役の岡田恵子氏らによる「日本企業がエンゲージメント経営を実践する5つの要諦」では、長年この分野でコンサルティングを行ってきた筆者らが、日本でエンゲージメント経営を実践している企業事例をもとに、それを結実させる方法を提示する。企業が掲げるビジョンを、従業員が理解・共感し、その達成に向けて、個々の能力を自発的に発揮することを促すエンゲージメント経営は、先進的な企業で導入が着々と進んでいる。さらに、人材が競争優位の源泉となる傾向が強まる一方、流動性が高まり、その争奪戦が激化する中、これまで以上に従業員との密接な関係を長く維持することが企業に求められ、「持続可能なエンゲージメント」という新たな概念が生まれている。