デジタル技術が破壊的変化をもたらすようになり、既存企業の多くはデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指している。だが、その取り組みが必ずしもうまくいっているとは言えない。DXの成功と失敗を左右するものは何か。マッキンゼーらの調査に基づき、経営戦略の視点からその要諦を探る。


 デジタル技術が市場をかく乱し、企業に破壊的変化をもたらすようになってから、20年以上が経つ。だが、その長い歴史にもかかわらず、既存企業はいまだにデジタルトランスフォーメーションの実行と実現に苦労している。

 第1の困難は、破壊に伴うものである。デジタル化によって新しい破壊的なビジネスモデルが実現可能となり、それらが旧来のモデルと激しく対立し、既存企業の売上高と利益の成長を強く圧迫している。

 既存企業側も、みずからのデジタル戦略をもって対抗する。筆者らの研究によると、そこからしばしば競争の第2ラウンドが始まる。シュンペーター理論における模倣の概念にも通じるが、既存企業は新規参入者の脅威に備え、みずからを(時には積極果敢に)変革し始める。しかし新規参入者は、既存企業の売上高と利益の成長をさらに落ち込ませるのだ。

 筆者らの推計では、この2度にわたるデジタル競争でデジタルへの対応に失敗した既存企業は、平均で年間売上成長率の半分、利益成長率の3分の1を失っている。

 第2の困難は、たとえ企業が変革を実行して競争に備えても、その結果が往々にしてかんばしくないことだ。我々マッキンゼー・アンド・カンパニーが先頃、主要な国々・業界における既存企業2000社を対象に実施した調査によれば、デジタル施策による利益率の平均は10%に満たないと推計される。これは、資本コストをわずかに上回る程度である。

 だがこれとは別に、デジタル投資によって成長を維持し、利益を生む能力は、企業群の中で大きな差がある様子も各業界で伺えた。上位10%の企業は、売上高成長率が業界平均より8ポイント高く、デジタル施策の投資対効果は下位10%の企業の10倍であった。

 これら上位の優秀企業は何が違うのか。それを知るためにデータを掘り下げて分析したところ、2つの要因が成果に大きく影響していることがわかった。

 1つ目は、自社の事業ポートフォリオをどの程度再編しているか、である(例:一部事業の売却、新規事業の買収、既存の事業群における投資の大幅な再配分など)。2つ目は、業界内のバリューチェーンにおける、自社ポジションの再調整だ。デジタル施策の投資対効果を高め、デジタルによって強いられる低成長を逆転させるには、これら両方が重要だったのである。