さてこのぶつ切りの蒲焼き、江戸時代中期までは下賤な食べ物とされていました。

 丸いまま焼いても火の通りが悪く、余分な脂が落ちないために泥臭く、貧しい人足《にんそく》などが、精をつけるために食べていたようです。

 値段も蕎麦と同じくらいと言いますから、一串400円~500円くらいのものでした。

 その後、鰻を開いて串を横に数本通して焼いた、現在の白焼きにあたる「筏焼《いかだやき》」が発明されると、余分な脂が落ちて見栄えが良くなり、鰻の地位が向上します。

鰻の白焼き
【材料】鰻の白焼き…1枚/荒塩…少々/わさび醤油…適量/梅干し…1個/山椒味噌…小さじ1
【作り方】 ①鰻の白焼きは3分程度蒸すかレンジで30秒温め、両面を軽く炙る。②器に盛り、荒塩、わさび醤油、叩いた梅干し、山椒味噌など、お好みの薬味を添える。

 それがやがて現在に続く、甘辛醤油だれで焼く蒲焼になったのは、江戸後期のことです。

 醤油が持つ消臭効果で臭みを隠し、加熱効果で食欲をそそる香りを出すといった相乗作用で、「鰻とはこんなに旨いものだったのか!」と突然火がつき、まさしく人気は“鰻登り”。

 江戸の町は、栄養価の高い生活排水が川や海に流れるため、大ぶりで脂の乗った鰻が大量に捕れたのですが、ついには江戸前の鰻では需要が追い付かなくなり、近隣から仕入れたほど。

鰻の佃煮
【材料】鰻の蒲焼き…1枚/実山椒の佃煮…大さじ2/酒…大さじ2/砂糖…大さじ2/醤油…大さじ2
【作り方】 ①鰻の蒲焼きは縦半分に切ってから、3cm幅に切る。②鍋に酒、砂糖、醤油、実山椒の佃煮を入れて中火で煮立たせ、鰻を加えて弱火にし、鍋をゆすりながら煮汁がなくなるまで煮る。

 江戸前の鰻の中でも、特に深川で捕れた鰻はブランド品だったらしく、寛延4年(1751年)に刊行された『新増江戸鹿子《しんぞうえどかのこ》』には、「深川が鰻の名産で、深川八幡の門前で多く売られている。千住や尾久の鰻も売られたが、深川の佳味には及ばない」とあります。

 ましてや江戸産ではない近隣の鰻は「旅鰻《たびうなぎ》」と呼ばれ、価値がずいぶん下がったようです。