自動運転社会への過渡期で
損保会社は倫理観を問われる
【中林真理子所長(保険分野)】
――自動運転ではトロッコ問題が話題です。
私は日本経営倫理学会に入っているのですが、自動運転をめぐる問題として出て来ていますね。さまざまな場所でここ2、3年、特に話題に上ってきた印象です。トロッコ問題という哲学の命題自体は以前からありました。でもこれまでは現実味がありませんでした。AIの開発進化に伴い、自動運転という身近な話題が出てきました。米ウーバー・テクノロジーズが自動運転車両で死亡事故を起こしたりと。そこで改めてどう考えればいいのかという議論が起きています。
――結論は出るのでしょうか。
日本ではまだ、国もメーカーも誰も結論を出していません。たぶん結論は出ないです。哲学は「これが正解」という世界ではありません。「議論する」ということ自体が恐らく正解なのではないでしょうか。
超一流の学者たちの団体、日本学術会議でも取り上げられています。9月に傍聴しましたが、まだ、「新しいトロッコ問題が出てきた」「どう議論したらいいのか」という取っ掛かりの段階です。何かしらの方向性が出れば、国の決定にも影響する可能性があります。
――損保会社の自動車保険は自動運転時代の到来でどうなるのでしょうか。
自動運転社会では事故は減ると言われています。それでもたぶん事故自体はなくならない。リスクがある限りなんらかの保険は必要です。
損保各社は倫理観が問われています。誰も想定していないような事故が起きた時、「約款にないから」と断ち切っていいのか。例えば大地震の際には人道上、お見舞金などの形で例外的に支払う対応をしています。自動運転の過渡期はそんなことが多いのではないでしょうか。
損保会社の自動車メーカーなどへの求償権もクローズアップされそうです。これまでは製造物責任の立証困難などから損保会社がかぶるケースが多く、でも再保険が掛かっているので大きな問題にはなりませんでした。自動運転時代ではシステムの欠陥が明確な場合、損保会社が求償権行使する可能性があります。そうすると行使先は自動車メーカーなのかセンサーメーカーなのかと、わけが分からなくなります。この辺りはまだ議論が始まったばかりです。
一つの解決案として、明治大学自動運転社会総合研究所監修『自動運転と社会変革――法と保険』で紹介している模擬裁判では、利害関係者による仲裁コンソーシアムの設立を提案しています。まだ業界でその方向に進んでいるわけではありません。責任割合とか出資割合とか議論は大変だろうと思います。