病室大部屋に空きがなく、個室になった場合は差額ベッド代は必要ないはずですが、請求する病院が少なからずあるようです Photo:PIXTA

 私事で恐縮だが、このところ高齢の父親が体調を崩して、入退院を繰り返している。そのため、父に代わって病院での手続きをする機会が増えた。

 医師の治療を受け、看護師にケアしてもらい、命をつなぐ父の姿を見て、医療技術の進歩を享受できることに感謝する一方で、医療費に関する病院側の説明についてはもやもやすることも多い。

 先日、容体が落ち着いて一時退院することになった父とともに退院の手続きを行い、同時に10日後の再入院についての説明を聞いたときも困惑することがあった。

 再入院時に利用する病室の希望を聞かれたため、父は差額ベッド代のかからない大部屋を希望した。すると、事務スタッフがこんなことを言ったのだ。

「大部屋をご希望ですね。わかりました。ただし、こちらは救急に対応している病院なので、状況によっては大部屋が満床になっている可能性があり、ご希望に添えないことがあります。個室を利用する場合は差額室料が発生します」

 その瞬間、「んっ? それは違うのでは……」と、思わず自分の耳を疑った。

 2018年3月5日付けの厚生労働省の通知に、大部屋が満床だという理由で個室に入院させた場合は、患者から差額ベッド代をとってはならないことが明記されているからだ。

差額ベッド代がかかるのは
「患者の希望」で個室に入院した場合

 日本の医療は、公的な医療保険(健康保険)で運営されている。病院や診療所で受ける治療や検査、手術のほとんどすべてに健康保険が適用されており、病院(または有床診療所)に入院した際にかかる室料も健康保険の対象だ。

 入院時の室料は、診療報酬(国が決めた医療費の公定価格)上は「入院基本料」という項目に含まれており、患者は年齢や所得に応じて決められた一部負担金を医療機関に支払えばよい。ただし、健康保険の対象となっている病室は、いわゆる大部屋で、6人など複数の患者が同じ部屋で寝泊まりする。

 大部屋には入院用のベッドが複数置かれており、通常、隣のベッドとの間の仕切りは薄いカーテン1枚だ。カーテンを閉めれば人目は避けられても、音は漏れてしまう。完全にプライバシーが保てるわけではない。