「麻布→東大卒」でありながら「プロゲーマー」という経歴が、世間の話題となったときどさん。しかし順風満帆だった彼のプロゲーマー人生は、ゲーマー20年目の2013年ごろに壁にぶつかった。格闘ゲームのeスポーツ化による環境の変化によって、全く勝てなくなったのだ。
2冊目の著書『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』では、そのV字回復の軌跡を紹介しながら、ときどさんが毎日やっている「努力のやり方」を紹介している。「圧倒的に変化が激しい」eスポーツの世界で戦うために、必要なこととは何か。ビジネスマンにも役立つエッセンスを語ってもらった。

「効率がいいのに結果が出ない人」が気づいていないたった1つの盲点Photo: Adobe Stock

勝っているのだからそれでいい

 前回の記事で触れた通り、僕はスランプをきっかけに「ときどを通して、『格闘ゲームっていいもんだな』と伝えたい」というポリシーを定めることにしました。

 このポリシーが定まってから、僕の中でのプレイに対する思いも変化してきました。ブーイングを受けながら勝てたとしても意味がない。そう思うようになったのです。
 もともとライバルと比較したときに、僕のプレイスタイルは単調で意外性に欠けるものでした。簡単にいうと面白くないのです。

 90年代から「あいつは勝っているけどプレイは寒い」といった評判はちらほらありました。もともと「飛んで(と)、キックして(き)、どうしたぁ!(ど)」というプレイを押し付けて勝っていたことが「ときど」の始まりです。そういった評価は仕方ありません。

 ただ、当時の僕からすると意味がわからなかった。「勝つのが目的でやっていて、勝っているのだからそれでいいだろう」と不思議に思っていました。「なんで、見て面白いことが評価の対象になるんだろう? 変なこといってるなあ」とも思っていました。

 特に90年代は現在のように視聴専門の人は、ほぼいませんでした。99%はプレイヤー。見る人がいないのだから、面白く感じてもらう必要もありません。かといってeスポーツになって視聴専門の人が増えても「見て楽しいを意識して、それが勝ちへの道とぶつかったらどうするの? そうなったら結局は勝ちを取るんじゃないの?」とピンときていませんでした。

 面白いプレイが理解できなくても、実際に勝っているうちはまだよかったです。「つまらないけど勝っている」。これは強いヒールとして存在意義があるかもしれません。しかし、『世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0』で詳しく述べたように、僕はeスポーツの環境の変化に対応できず、全く勝てなくなりました。スランプに陥ってからは、「つまらない上に勝てない」状態。これでは目も当てられない。何のためにいるのかわかりません。