時代を超えて不変の説得力を持つ、「経営理論」を習得せよ
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サマリー:よく「経営学は後追いの学問にすぎない」といわれることがある。現実の変化の速いビジネスを、経営学は後付けでしか説明できない、という批判だ。しかし、理論は古びない。本稿では、経営学者の英知の結晶である理論... もっと見るの数々を、ビジネスパーソンがいままさに学ぶべき理由を説明している。本稿は『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社、2019年)の一部を抜粋し、紹介したものである。 閉じる

経営理論の説明力は、時代を超えて不変

 経営理論がビジネスパーソンの思考の軸として有用たる理由を述べよう。それは「理論は古びない」ということだ。よく「経営学は後追いの学問にすぎない」といわれることがある。現実のビジネスの方がはるかに動きと変化が速く、経営学はそれを後付けでしか説明できない、という批判だ。

 しかし、待っていただきたい。これは本当にそうだろうか。例えば『世界標準の経営理論』の第5章で紹介する「情報の経済学」の始祖といえるのは経済学者のジョージ・アカロフだが、彼がその論文を発表したのは、いまから約50年前の1970年だ。そして21世紀の現在でも同理論は少しずつ進化しながら、ビジネス現象を説明する「標準理論」として多方面で使われている。先述した買収プレミアムの第1の理論が、まさにそれだ。

 垂直統合、アウトソーシング、アライアンス、スタートアップ企業の国際化、ビジネス契約書のあり方などを理解する上で、いまでも圧倒的に重要なのは第7章で紹介する「取引費用理論」だ。そして、同理論の始祖といえるロナルド・コースが論文を発表したのは、なんと1937年だ。

 ソーシャルネットワーク理論の白眉といえる第25章の「『弱いつながりの強さ』理論」は、スタンフォード大学のマーク・グラノヴェッターが1973年に発表した論文で提示された。そしてそれから約半世紀後の現在、この理論を活用しているのは、フェイスブックのデータアナリストである。

 第27章で解説するソーシャルキャピタルは、1988年にシカゴ大学のジェームズ・コールマンが提示したものだ。この理論は、現在世界的な潮流となっているグラミン銀行などの「ソーシャルファイナンス」分野の説明に使われる。何よりこの理論は、ブロックチェーン技術の本質をとらえている。筆者は2018年にブロックチェーンに関する講演を行ったが、そこで活用したのはソーシャルキャピタル理論だ。

 いったいどこが「経営学は後追いの学問」なのだろうか。何十年も前に確立されている経営理論が、いまだに現在の先端のビジネス事象を次々と説明する主要理論として使われているのだ。

経営学が後追いだという批判は現象ドリブンにとらわれている

 もうおわかりと思うが、「経営学は後追い」という批判は、従来の現象ドリブンにとらわれているから出てくるのだ。たしかに「現象としてのビジネス」は、新しいものが次々と出てくる。それらには流行りすたりがある。いま流行のクラウドソーシングやSNSも、そのうちなくなって新しい現象が出てくるのかもしれない。

 しかし、理論は古びない。理論は、組織と人間の行動・意思決定の本質を、根本原理から説明し、そこにwhyの思考の軸を与えるからだ。ビジネス事象が時代とともに変わっても、それを行うのはいつも人間と組織だ。だからこそ「理論ドリブン」の考えを身につければ、それはこれから20年、30年にわたって「理論と現象の知の往復」をするための思考の軸になるのだ。おそらく、本書で紹介する経営理論の多くは、我々が死ぬまでの間は古びないだろう。

 このように、(1)ビジネスパーソンに説明の軸を与え、説得性を高めて行動につなげ、(2)汎用性が高く無数の事象に応用でき、そして(3)時代を超えて不変、なのが世界標準の経営理論なのだ。だからこそ筆者は、この経営学者の英知の結集である理論の数々を、学者だけの財産として留めておくべきではないと考えている。これからの時代は、ビジネスパーソンにこそ、経営理論を思考の軸とする価値があるのだ。