経営理論とフレームワークの違いを明確にし、実務に活かそう
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サマリー:経営学というと、ハーバード大学のマイケル・ポーターによる戦略論を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。しかし、「ポーターの戦略論」は経営理論ではなく、フレームワークなのである。従来の経営学の教科書や... もっと見るビジネス本は「理論」と「フレームワーク」を混乱して使ってきた。今回から2回にわたり、両者の違いについて解説していく。本稿は『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社、2019年)の一部を抜粋し、紹介したものである。 閉じる

「ポーターの戦略論」は、経営理論ではなくフレームワークである

『世界標準の経営理論』は、あくまで「経営理論」にこだわっていることを、改めて強調しておきたい。

 皆さんの中にも、経営学というとまずはハーバード大学のマイケル・ポーターによる、いわゆる「ポーターの戦略論」を思い浮かべる方は多いのではないだろうか。ポーターの『競争の戦略』を読まれたことのある方もいるかもしれない。

 しかし、一般に知られる「ポーターの戦略論」は、実は経営理論ではない。『競争の戦略』や、経営学の教科書に載っている「ファイブ・フォース」「バリューチェーン」は、あくまでフレームワークである。よく知られた「SWOT分析」「BCGマトリックス」「ブルー・オーシャン戦略」も、理論ではなくフレームワークだ。「イノベーションのジレンマ」もフレームワークに近いだろう。

 筆者は、「従来の経営学の教科書やビジネス本は、『理論』と『フレームワーク』を混乱して使ってきた」という問題意識を強く持っている。それが、ビジネスパーソンの経営学への理解を妨げてきた一因かもしれない。では、理論とフレームワークは何が違うのか。

 まず、理論とは何かについては、「学術的な意味で、経営学専門の定義は固まっていない」と先述した。しかし他方で、理論の目的は「経営・ビジネスのhow, when, whyに応えること」とも述べた。特に重要なのはwhyであり、経済学、心理学、社会学のいずれかの人間・組織の思考・行動の根本原理から、「なぜそうなるのか」を説明するのが理論の目的だ。

「理論でないもの」5つの特徴

 では、逆に「理論ではない」のはどういうものか。これを考えると、理論とフレームワークの違いも明らかになる。

 そしてこの問いに、直接答える論文がある。ASQの1995年特集号に掲載された、スタンフォード大学の著名経営学者ロバート・サットンらの論文で、タイトルもまさに“What Theory Is Not”(理論でないものは何か)という(※1)。これはいまでも米ビジネススクールのPh.D.(博士)課程で広く参照される論文だ。筆者も、ピッツバーグ大学とカーネギーメロン大学の両方のPh.D.の授業で読むことを指示された。以下は、この論文の導入部からの抜粋である。

“Though there is conflict about what theory is and should be, there is more consensus about what theory is not. We consider five features of a scholarly article that, while important in their own right, do not constitute theory.”(Sutton &Staw, 1995, p.372.)
「何が理論か(理論であるべきか)」についてはいまだに(学者間で)論争があるが、他方で「何が理論でないか」については、より広いコンセンサスが取れている。我々は「理論を含んでいない」論文の5つの特徴を検討する。(筆者意訳)

※1 _Sutton,R. I. & Staw,B. M. 1995. “What Theory Is Not,” Administrative Science Quarterly, Vol. 40, pp. 371-384.