Photo:PIXTA

入山章栄氏の最新刊『世界標準の経営理論』は、世界約30の経営理論を、可能な限り網羅・体系的に、そして圧倒的なわかりやすさでまとめている。12月12日の発売からわずか6日で3刷りの増刷が決定し、オンラインの書籍販売サイトでは軒並み品薄状態のため、年末の入荷を待っていただくか、あるいは最寄りの大型書店などにて、手にとっていただきたい。
今回は「経営理論」と「フレームワーク」の違いを整理したい。本書に興味を持つビジネスパーソンであれば、マイケル・ポーターの「ファイブ・フォース」やW・チャン・キムの「ブルー・オーシャン戦略」といった言葉をご存じの方も多いだろう。これらを理解した上で「経営理論のことはわかっている」と思われるかもしれない。しかし、実はこれらは理論ではなく「フレームワーク」である。『世界標準の経営理論』の序章「経営理論とは何か」から抜粋してお伝えする。

「ポーターの戦略論」は、経営理論ではなくフレームワークである

 『世界標準の経営理論』は、あくまで「経営理論」にこだわっていることを、改めて強調しておきたい。

 皆さんの中にも、経営学というとまずはハーバード大学のマイケル・ポーターによる、いわゆる「ポーターの戦略論」を思い浮かべる方は多いのではないだろうか。ポーターの『競争の戦略』を読まれたことのある方もいるかもしれない。

 入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授
慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。 三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。 2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。Strategic Management Journal, Journal of International Business Studiesなど国際的な主要経営学術誌に論文を発表している。 著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)がある。
Photo by Aiko Suzuki

 しかし、一般に知られる「ポーターの戦略論」は、実は経営理論ではない。『競争の戦略』や、経営学の教科書に載っている「ファイブ・フォース」「バリューチェーン」は、あくまでフレームワークである。よく知られた「SWOT分析」「BCGマトリックス」「ブルー・オーシャン戦略」も、理論ではなくフレームワークだ。「イノベーションのジレンマ」もフレームワークに近いだろう。

 筆者は、「従来の経営学の教科書やビジネス本は、『理論』と『フレームワーク』を混乱して使ってきた」という問題意識を強く持っている。それが、ビジネスパーソンの経営学への理解を妨げてきた一因かもしれない。では、理論とフレームワークは何が違うのか。

 まず、理論とは何かについては、「学術的な意味で、経営学専門の定義は固まっていない」と先述した。しかし他方で、理論の目的は「経営・ビジネスのhow, when, whyに応えること」とも述べた。特に重要なのはwhyであり、経済学、心理学、社会学のいずれかの人間・組織の思考・行動の根本原理から、「なぜそうなるのか」を説明するのが理論の目的だ。

「理論でないもの」5つの特徴

 では、逆に「理論ではない」のはどういうものか。これを考えると、理論とフレームワークの違いも明らかになる。

 そしてこの問いに、直接答える論文がある。ASQの1995年特集号に掲載された、スタンフォード大学の著名経営学者ロバート・サットンらの論文で、タイトルもまさに“What Theory Is Not”(理論でないものは何か)という(※1)。これはいまでも米ビジネススクールのPh.D.(博士)課程で広く参照される論文だ。筆者も、ピッツバーグ大学とカーネギーメロン大学の両方のPh.D.の授業で読むことを指示された。以下は、この論文の導入部からの抜粋である。

“Though there is conflict about what theory is and should be, there is more consensus about what theory is not. We consider five features of a scholarly article that, while important in their own right, do not constitute theory.”(Sutton &Staw, 1995, p.372.)
「何が理論か(理論であるべきか)」についてはいまだに(学者間で)論争があるが、他方で「何が理論でないか」については、より広いコンセンサスが取れている。我々は「理論を含んでいない」論文の5つの特徴を検討する。(筆者意訳)

※1 _Sutton,R. I. & Staw,B. M. 1995. “What Theory Is Not,” Administrative Science Quarterly, Vol. 40, pp. 371-384.