濃いコミュニティーに入り込む

 岩手大学発ベンチャーとして2016年に設立したエイシング。創業当初は大手求人サイトに140万円ほどかけて求人情報を掲載した。

「応募自体は100人以上からあったのですが、申込者の誰1人として、プログラミング試験を通過できる人はいませんでした。私たちの取り組んでいるAIの開発は、研究レベルのスキルを要します。通常の求人媒体からくる応募者だとレベルが届かず非効率になってしまうことがわかったので、採用方法を変えなければいけなくなりました」(出澤氏)

 そこで、プログラミングを好む人たちのコミュニティーに顔を出すことから始めた。機械学習やデータサイエンスに携わる人々の世界的コミュニティー「Kaggle(カグル)」や、AIマシンラーニングのオフ会などに参加し、人を推薦・紹介してもらう“リファラル式”をとった。

エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏 写真提供:エイシング

「プログラミングやAIの世界には想像以上に濃いコミュニティーがあって、“村”が出来上がっていました。一度入れば、芋づる式に人に会うことができたんです。また、私たちは岩手大発のベンチャーであることもあり、技術力の見極めができるので、適したスキルを持っている人材に声を掛けることができました」(出澤氏)

 その後も、コミュニティーでのリファラル採用は続けつつ、自社でプログラムコンテストやAIベンチャー交流会を開くなど、積極的に機会を創出している。

技術があれば、学歴不問

 実際にエイシングが、この採用手法を使い一本釣りしたのはどんな人材なのか。

 まずは、地方国立大学の博士号取得者である45歳の男性社員。博士号取得後、そのまま大学職員として働いていた。出澤氏が「なぜこの仕事をしているんだろう」と不思議に思うほど、業務内容と持っているスキルが合っていなかったという。しかし、彼からすればそれ以外の就職先を知らず、声を掛けたら驚いていたそうだ。

 また、東海地方に住んでいた大学院生を新卒で採用した。親からは工場勤務を勧められ就職を決めかけていた矢先に、インターンで2週間ほど東京に来てエイシングで働いてもらったのが契機となった。

 上京することに抵抗があったり、仕事内容自体が親の理解を得にくかったりと、安心して就職を決めてもらうのには時間がかかる。そのため、地方在住者には職場の近くにあるホテルに宿泊してもらい、インターンで試してみてもらうことも多いのだ。

「これまで3人ほどインターンを実施しました。コミュニケーションがうまくいかず大学院を中退した人もいましたが、うちは技術があれば学歴や経歴は問いません。働いたことのない人も多いので、まずは働いてみてもらうのが一番だと考えています」(出澤氏)

会話が苦手でも「素直」であればいい

 最近の採用面接は、できるだけ回数を減らしてすぐに内定を出すのがトレンドだ。しかし、エイシングでは必ず3回以上面接を実施する。入社後のミスマッチを防ぐため、採用の可能性を下げてでも、納得いくまで会うスタイルなのだ。人によって面接回数を変えるなど、フローはかなり柔軟だ。