2019年上半期、最も入場者が訪れた美術展となった「フェルメール展」。世界的に見ても、フェルメールがここまで人気を集めている国は珍しいのだという。なぜフェルメールは日本人に愛されるのか、専門家たちに話を聞いてみた。(フリージャーナリスト 秋山謙一郎)

2019年上半期に
入場者数トップを記録

フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」《真珠の耳飾りの少女》(1655年? 油彩 カンヴァス、マウリッツハイス美術館) Photo:AFLO

 奥ゆかしさ、慎ましさ、清寂――。かつても今も、はっきりとした物言いを日本人は好まない。絵画でも文学でも、作家による強いメッセージ性を帯び、強烈な個性を発揮する作品よりも、ありふれた日常を描き、見る者が同調できるものが好まれるところがある。

 世界で、とりわけ日本で、なかでも女性の間で圧倒的人気を誇る画家、それがフェルメールだ。“フェルメール・ラバー”と呼ばれる熱心なファンを見るにつけ、そんな「日常への共感」こそが、フェルメール人気の謎を解く鍵なのかもしれないと感じる。

 ヨハネス・フェルメール(本名ヤン・ファン・デル・メール・ファン・デルフト)は1632年、オランダに生まれた。画家として卓越した技量を持っていた彼は、パトロンにも恵まれた。また、実父から引き継いだ宿屋の経営収入や裕福な妻の母にも支えられ、後に名作として知られる数々の作品を遺す。だが、晩年は一転、流行の変化や若手画家の台頭といった逆風に加え、戦争(第三次英蘭戦争)の勃発を契機に、経済的に困窮。最後は莫大な借金を抱えて失意のうちに亡くなり、遺された家族は破産…という悲劇的なものだった。

 こうした人生における悲劇性が日本人に好まれるのか、フェルメール人気は、広く世界を見渡しても、特に日本で高いという。

 日本で権威あるアートメディアとして知られる『美術手帖』のサイトによると、2018年10月から今年の2月まで、「上野の森美術館」(東京都台東区)で開催された「フェルメール展」では、実に68万3485人もの観客を動員した。これは、ほぼ同時期に東京都美術館(同)で行われた、有名な《叫び》(1893年、オスロ国立美術館所蔵)の展示で話題となった「ムンク展」の観客動員数66万9846人を1万3639人上回っている。

 その観客動員数は、同サイトによる「2019年上半期の展覧会入場者数TOP10」の1位にランクインしていることからも、いかにフェルメールが人々に支持されているか窺えよう。

 東京での開催後、フェルメール展は大阪に移動し、2月から5月まで大阪市立美術館(大阪市天王寺区)で開催された。こちらの観客動員数は54万1651人。先で触れた「入場者ランキング」では3位につけている。東京と大阪で、フェルメールだけで122万5136人の観客を集めたということだ。(出所:『美術手帖』2019年7月19日付記事)

 日本で、これだけの観客を動員できる画家は、そうそういるものではない。

 たしかに、「判官贔屓」という言葉があるように、日本人は悲劇性のある物語や、そうした人生を余儀なくされた歴史上の人物を好む傾向がある。しかし、それだけをもって「画家・フェルメール」の作品が大勢の人に愛される理由とするには、やはり無理があるだろう。