「どういうことでしょうか」

 慌てて半沢がきくと、平山の視線がすっと壁に逸れていく。それが戻ってきたとき、その目に浮かんでいたのは、怒りだ。

「私がお願いしたのは、もう二週間以上も前なんですよ、半沢さん」

 静かな口調に、平山の感情が滲み出ている。「ところがその間、御社からはなんの連絡もなかった。ウチが上場したときにお世話になった縁でお願いしましたが、こういう対応では信頼してお世話になるというわけにはいきません」

 なんの連絡もない、というくだりで、半沢は思わず三木を一瞥した。頬のあたりを引きつらせた三木は愕然とし、顎が落ちそうだ。

「それは申し訳ありません」

 半沢は詫びた。「ですが、ウチのチームで本件について鋭意検討しておりまして──」

「遅いですよ」

 平山は厳しい表情で撥ね付けた。「私どもIT業界はスピードが命です。生き馬の目を抜く業界ですからね。こんなスピードでは、とてもじゃないがパートナーとして、信頼できません。そんなわけですので、半沢さん──」

 平山は、半沢を見据えた。「先日のアドバイザー契約、なかったことにさせてください。では」

 そういうと、席を立ってさっさと歩きだす。

「社長、お待ちください」

 慌てた半沢が声をかけたが、頑なな横顔を見せたまま平山は振り返ることなくドアを開け、部屋の外へと消えた。

 取り付く島もない。

 隣で諸田が頭を抱え、それから、同じように啞然としたまま声もない三木らチームの面々に向かって怒鳴った。

「なんで、連絡しなかったんだ。ボツ交渉だったのか」

 埴輪のような顔で椅子にかけているメンバーから返事はない。やがて、「すみませんでした」、と三木が詫びた。

「なに考えてるんだ、まったく」

 諸田は悔しそうに表情を歪める。「契約破棄についての条項はどうなってる。中途解約についての規定は」

 カバンから契約書を出した三木が、すばやく条文を確認した。

「罰則規定は特にありません」

 その返答に、諸田は天井を仰ぎ、「なんでこんなことになるんだよ」、と悲痛な声を出す。

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