平成の民放テレビドラマ視聴率史上第1位を記録したドラマ「半沢直樹」。「倍返しだ!」で日本中を熱狂させたその続編が、ついに2020年4月スタートのTBS日曜劇場で放映される。

続編ドラマの原作となるのは、池井戸潤氏の『ロスジェネの逆襲』と『銀翼のイカロス』の2作品。そこで「半沢直樹イヤー」の幕開けを記念して、「週刊ダイヤモンド」での連載後、2012年に単行本が発売された小説『ロスジェネの逆襲』の3章までを全38回の連載形式で期間限定公開する。*2020年6月末まで

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「すみません」

 蒼ざめた顔で三木はまた詫びた。「先週は作業に集中していたものですから」

 意味のない言い訳だった。平山が厳しい男だということはわかっていながら、対応に甘さが出た。半沢は目を閉じ、それからゆっくりと立ち上がると、

「引き揚げるぞ」

 そういって真っ先に部屋を出た。

 

「よお、半沢君じゃないか」

 声をかけられたのは、ビルのエントランスを出ようとしたときだった。

「伊佐山さん」

 東京中央銀行の証券営業部長、伊佐山泰二が、そこに立っていた。濃紺のスーツに身を包んだ伊佐山は、百九十センチの巨体から、見下ろすように半沢に視線を向けている。一度見たら忘れられない馬面にニヤついた笑いが浮かんでいた。

「久しぶりじゃないか。どうだ、セントラルの飯は」

「まあまあですよ」

 半沢はこたえながら、伊佐山の背後に控えた男たちの中に、野崎三雄の姿を見つけて、おや、と思った。野崎は東京中央銀行の証券営業部次長。国内外の企業買収でチーフを任されている男だ。
 なんで野崎がここに? 浮かんだ疑問の答えを見出す前に、「それはよかった。で、今日は電脳さんに営業か」、と伊佐山は機嫌よく続ける。

 馴れ馴れしく話しかけてはくるが、伊佐山とは、銀行の企画部時代に激しくやり合った間柄だ。合併銀行である東京中央銀行では、お互いに旧T、旧Sと呼ぶ旧東京第一銀行人脈と旧産業中央銀行人脈が複雑に入り組んでいた。半沢は旧S出身。一方の伊佐山は将来経営の中枢入りは確実といわれている旧Tの若手リーダーだ。

 伊佐山が半沢のことをこころよく思っていないことはわかっている。勝ち誇った表情を浮かべているのは、証券子会社へ出向を命じられた半沢に対する優越感からだろうか。
「まあ、そんなところです。そちらは?」

 野崎を一瞥して、半沢はきいた。

「まあ似たようなもんだ」

 答えをぼかした伊佐山の背後から、野崎が鋭い眼差しを向けてきている。伊佐山の右腕と呼ばれている男だ。さしずめ、伊佐山の敵は自分の敵だとでも思っているに違いない。

 話はそれだけだった。

 じゃあ、と伊佐山が右手を挙げ、行員たちの先頭に立って受付に向かって歩いて行く。半沢も伊佐山の訪問を詮索するほどの余裕はなかった。伊佐山たちの後ろ姿を見送った半沢は、視線を剥がすと足早にビルを後にした。