完全競争に近い、米国内線航空産業

 完全競争に近い産業の代表例は、米国内線航空産業だ。同産業は1978年に大幅な規制緩和が実施されて以来、企業の参入が相次いだ(=条件2に近づいた)。結果としていまでも100以上の航空会社がひしめき合って競争している(=条件1に近い)。航空ビジネスは機内サービスの質等で差はあるが、ビジネスモデルの抜本的な差別化は難しい。

結果として、米国の消費者はエクスペディアなどの旅行ウェブサイトで航空料金を徹底的に比較して、いちばん安いフライトを取る傾向がある(=条件3に近い)。このように構造が完全競争に近いからこそ、米国内線航空業界は利益率が慢性的に低くなるのだ。

完全競争の対極にある「独占」は、超過利潤の最大化が起こる

 そしてこの完全競争の条件1・2・3の真逆を満たすのが、「完全独占」である。すなわち、業界に1社だけが存在して価格をコントロールし(=条件1の逆)、他企業が参入できない状態である(=条件2の逆)。1社しかいなければ、そもそも差別化もない(=条件3が無効)。

 図表2を見ていただきたい。これはミクロ経済学の教科書によく載っている図表を筆者がアレンジしたものだ。まず右下がりの線Dは、いわゆる消費者の「需要曲線」だ。市場価格が下がるほど消費者の需要は増えるから、その関係は右下がりになる。線Sは企業の限界費用曲線(=ここでは供給曲線と同じと考えてよい)と呼ばれるものだ。

(図表2)拡大画像表示

 まず完全競争の場合、企業は市場価格に影響を及ぼせないので(=条件1)、市場の価格メカニズムが完全に働き、最終的に市場の供給量(=生産量)と需要量は Qa で一致する。したがって点Aが実現し、市場価格はPaとなる。これはよく知られた「需要と供給の一致の法則」で、この場合、企業の超過利潤はゼロとなる。

 他方で完全独占だと、状況はまったく異なる。独占企業は生産量も価格も自分でコントロールできる。したがって、独占企業が合理的なら、自社の超過利潤を最大にする生産量と価格を設定するはずだ。そして、その生産量は「限界費用」と「限界収入」が一致する点Bに対応するQbとなる。なぜそうなるかの詳細な説明は経済学の教科書に譲るが、直感的には「合理的な企業は、『収入と費用の差(=利潤)』が最大になるところで生産する」と考えていただければよい(※3)

 さて、独占企業にとって最適な生産量がQbだとしても、この企業は価格を供給曲線上のPbに設定する必要はない。なぜなら、独占企業は自社製品の価格(=1社しかいないのでこれは市場価格でもある)を自在にコントロールできるからだ。したがって独占企業が合理的なら、設定する価格はPcになる。なぜなら需要曲線が示すように、消費者は供給量がQbなら、Pcまでの価格を受け入れてくれるからだ。

 このように完全独占の場合は、完全競争と比べて(1)供給量・需要量が減り(Qa→Qb)、(2)市場価格が上昇する(Pa→Pc)。買える量が減って価格が上がるのだから、消費者には望ましくない事態だ。他方で、(3)独占企業は大幅な超過利潤を得ることができる。図表2の台形ECBFを生産者余剰というが、これが最大になっている。独占の時、企業は超過利潤を最大化できるのだ。

 この「完全独占による市場支配力の行使」は、多くの国の競争法(独占禁止法)で違反となっている。したがって、図表2に示されたのとまったく同じ状況が起きることは、そうそうない。とはいえ「独占に近い産業」が現実に存在するのも事実だ。例えば、パソコンのオペレーティング・システム(OS)業界は米マイクロソフトが一時期独占に近い状況にあったために、それが消費者の不利益につながるとして、米国連邦地裁からOS部門とアプリケーション部門の分割を命令されたことがある(※4)