自社の競争環境をいかに「独占」に近づけるか

 このように完全競争も完全独占も、あくまで理論的な仮想状況にすぎない。しかし大事なのは、この2つを両極とすることで、皆さんの業界が程度論としてどの辺りにいるかを測る物差しができたことなのだ。

(図表3)拡大画像表示

 図表3を見ていただきたい。このスペクトラムは、本章で皆さんにいちばん覚えていただきたいものだ。これこそがSCPのエッセンスだからだ。先に述べたように、米国内線航空業界は、多くの他業界と比べれば完全競争に近い。他方でパソコンのOS業界は完全独占に近い。皆さんの業界も、この完全競争と完全独占の間のどこかに必ず存在する。ポイントは「程度としてどちらに近いか」である。

 ここまで来れば、完全競争を理解する重要性が理解できたのではないか。SCPの骨子とは、「完全競争から離れている業界ほど(=すなわち独占に近い業界ほど)、安定して収益性が高い(=すなわち構造的に儲かる)業界である」ということなのだ。あるいは「企業にとって重要なのは、自社の競争環境をなるべく完全競争から引き離し、独占に近づけるための手を打つこと」ともいってよい。

※1)_正確には、産業構造と利潤の関係を静学モデルで分析する古典的な分野を “old IO”、ゲーム理論等を駆使して企業間のダイナミックな相互依存関係を分析する分野を “new IO” と呼ぶ。現在の産業組織論はnew IO中心だが、経営学のSCPへ昇華したのはold IOであることから、本書はold IOを中心に議論を進める。

※2)_U.S. Department of Commerce(米国商務省)のデータに基づく筆者の計算では、1999年から2002年の米国「食品・飲料およびタバコ製品」(SIC〈米国産業標準分類〉2桁ベース)の名目GDP平均成長率は2.7%だった。

※3)_数学に馴染みのある読者のために、以下でこのポイントを簡単な数学を使って説明する。まず、独占企業の利益は、 Π=P(Q)×Q−C(Q)……(式1)
と表せる。ここでΠは独占企業の利益、P(Q)×Qは独占企業の総収入(価格×売上量)、C(Q)は費用である。ここでP(Q)、C(Q)とは、PとCがそれぞれQの関数(価格と費用が生産量に影響を受ける)ということだ。ここで合理的な独占企業は自社利益を最大化するわけだが、数学的にはそれは(式1)をQで微分してイコール・ゼロとすることと同じである。P(Q)×QのQについての微分が限界収入(MR)で、C(Q)のQについての微分が限界費用(MC)なので、MR−MC=0すなわちMR=MCとなる。すなわち、図表2で MR と MC が一致する点Bに対応する Qb まで生産するのが合理的なのだ。
  ここで理解していただきたいのは、完全競争の場合はP(Q)がPに置き換わることだ。すなわち、完全競争では企業が市場価格をコントロールできない(条件1)ので、PがQに影響を受けない。この場合、(式1)のP(Q)をPに置き換えると、 Π=P×Q−C(Q)……(式2)
となる。これをQで微分してイコール・ゼロとするとP−MC=0すなわちP=MCとなる。つまり完全競争では市場価格と限界費用が一致する。このように数学的に言えば、独占と完全競争の違いは「PがQに影響を受けるか、受けないか(P(Q)か、Pか)」の違いといえる。

※4)_2001年に米国連邦高裁が判決を差し戻し、その後和解。