「ポーターの競争戦略」の幕開けになった「企業グループ」の発想

 ベインがQJEに論文を発表してから26年後の1977年、ケイブスとポーターが同じQJEに共同論文を発表した(※4)。そしてこの論文こそが、それまで経済学で探究されてきたSCPを「経営学のSCP」に昇華させる契機となった。「ポーターの競争戦略」の幕開けとなった論文ともいえる。実際、いまでも欧米の経営学博士課程でこの論文が読まれることは多い。

 ケイブスとポーターは「ベインが主張してきた『業界の参入障壁』だけでは企業の収益率を説明するには不十分」と主張した。代わって彼らが提示したのは、「そもそも参入障壁は産業だけにあるのではない。一産業のなかにも『企業間の移動障壁』がある。それを理解しないと本質を見誤る」というものだった。

 ケイブスとポーターによると、業界内の「移動障壁」は企業それぞれの特性によって規定される。すなわち同じ業界のなかでも、製品ラインアップ・進出地域・費用構造などで似ている企業と似ていない企業があり、似た企業同士を一つの「グループ」と考えると、同じ産業でも特性の異なる企業グループが複数存在することになる。そしてあるグループの企業が、特性の違う別グループに参入するのは難しい(移動障壁が高い)。図表5はそのイメージを図化したものだ。

「ポーターの競争戦略」を理解すればフェイスブックの強さがわかる(図表5)拡大画像表示

 日本の国内自動車製造業を取り上げよう。この業界にも、企業同士のグループは存在する。例えば「軽自動車メーカー」と「乗用車メーカー」は別のグループだろう。両グループの間の移動障壁も高そうだ。カルロス・ゴーン氏がCEOに就任する前の日産自動車は軽自動車に進出していなかったし、他方で国内販売の9割以上を軽自動車が占めるスズキは、乗用車セグメントに長らく本格参入してこなかった。BMWやダイムラー(メルセデス・ベンツ)などの「ラグジュアリー車メーカー」と「大衆車メーカー」も違うグループだろう。

 このように「『産業』というのはあくまで制度的に定義されたもので、その参入障壁を考えるだけでは企業の収益性は説明できない」というのが、ケイブスとポーターの主張だ。同じ産業にも企業特性ごとにグループがあり、企業収益にとってより本質的なのはそのグループ間の移動障壁だ、ということなのである。