ポーターの競争戦略が常に差別化を重視する理由

 さて、そうだとすれば、高い超過利潤を得たい企業に重要な戦略は、「自社のグループの特性を、なるべく他グループと似せない」ことになる。さらに言えば、「自社のグループの企業数は少ない方が、そのグループが独占状況に近づくから超過利潤が高まる」ともいえる。

 これこそが「経営学のSCP」の重要なポイント、すなわち、「差別化戦略の重視」につながるのだ。「似せないこと」は「差別化すること」と同義だ。ポーターの競争戦略では差別化戦略が常に重視されるが、その源流はここにあるのだ。

そして、これは完全競争の条件3(=企業の同質性)の真逆でもある。よくビジネスでも差別化戦略は議論される。実際多くの企業が、技術、機能、デザイン、ブランドなど様々な手段で差別化に成功している。現代なら例えば、アップル、スターバックス、良品計画、コマツ、ファナックなどがその代表だろう。SCPからみれば、それは可能な限り自社の周囲の競争環境(グループ)を完全競争から遠ざけて、独占に近づけていることにほかならないのだ(図表3参照)。

「ポーターの競争戦略」を理解すればフェイスブックの強さがわかる(図表3)拡大画像表示

根底にあるのは、競争環境をいかに「完全競争から引き離せるか」

 このように、まずベインを中心とする経済学のSCPは、儲かる競争環境の仕組みを「産業の高い参入障壁(=条件2の逆)→少数企業による産業支配(=条件1の逆)」というロジックに求めた。これに対してケイブスとポーターは、「企業レベルでの戦略的な差別化(=条件3の逆)→企業グループ間の高い移動障壁(=条件2の逆)→少数の企業がグループを支配(=条件1の逆)」というロジックを提示したのだ。

 ベインによる経済学のSCPも、ポーター式のSCPも、根底にあるのは「いかにして競争環境を完全競争から乖離させるか」であることに変わりはない。違いは、その出発点をどこに置くか、ということなのだ。経済学のSCPが産業構造を中心に考えていたのに対し、それを企業グループレベルまで解き放ち、だからこそ「差別化戦略のような企業の競争戦略が重要」という地平を切り開いたのが、ポーターによる経営学のSCPなのである。経営学においてポーターの競争戦略は、競争戦略論という新しい分野を切り開いた一大革命であり、それは彼の著書や様々な経営本を通じて多くのビジネスパーソンに伝わった。その源流はここまで解説したSCPであり、その端緒となった彼らの1977年のQJE論文にあるのだ。

 さて、このポーターとケイブスのQJE論文が発表されてから、すでに40年以上が経過している。では、このSCPの基本主張は21世紀の現代では色あせたものになってしまっているのだろうか。ここからは私見になるが、筆者はそうは考えない。むしろ、SCPの基礎メカニズムを理解しておくことの重要性は、現在の方がはるかに高まっているのではないだろうか。例えばそれは、現在世界で隆盛を極めるプラットフォームビジネスのメカニズムが、まさにSCPの主張と整合的だからだ。最後にこの点に触れよう。