「で、そのスキームは結局、承認されたのか」

「内容は厳秘扱いでわからないが、副頭取と証券営業部に一任されたらしい。そのスキーム通りやるかどうかは連中の判断だ」

 渡真利はこたえた。

「要するに、それが世の中に出るまで、誰にもわからないわけか」

「明日、動きがあるぞ」

 ふいに渡真利はいった。「広報部が記者会見を準備している」

「近藤からの情報か」

 近藤直弼は、半沢と渡真利の同期で、いま広報部次長職にある。

「ご明察」

 渡真利はいった。「なんでも、当行内で記者会見をするよう、証券営業部からの申し入れがあったらしい。野崎の野郎がどんな手を打ってくるか、お手並み拝見といこうじゃないか」


「東京スパイラルの株価をモニタリングして、動きがあったら報告してくれないか。かなり動くと思う」
 翌日の午前九時前、渡真利からの情報を伝え、森山に命じた半沢は、自らもパソコンを操作して電脳雑伎集団と東京スパイラルという二大IT企業の株価をモニタに呼び出した。

 電脳が東京スパイラル株を買いに向かえば、市場での価格はたちまちストップ高にまで跳ね上がるはずだ。

 同時に、東京スパイラルもまた、どこかの企業がなんらかの目的を持って自社株を買っているのを知ることになるだろう。その買い手が電脳雑伎集団だと判明するのは時間の問題である。

 だが──。

 ちょうど九時を回った時点での株価ボードは、小動きを示すばかりで、大量の買いが入っている様子はまるでなかった。

 とっくに動きが出ていてもおかしくないのに、気配がない。

 そのまま、前場が引けた。

 いったい、どうなってる。半沢が小首を傾げたとき、部長室のドアがノックされた。森山だ。「ずっとモニタリングしましたが、特に変化はありませんでした。本当に今日、動くんですか、部長」

 そうききたくなるのも無理はない。

「どういうケースが考えられる?」

 半沢がきくと、森山は考え込んだ。

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